性的表現注意!





























背中に立てられた爪





「先輩、お話があります」

 そう言ってを見上げた兵助の目には、見たことも無いような壮絶な色が宿っていた。熱と焦りと、苛立ちと固い決意と、常に存在する冷たい理性とが混ざり合ったそれ。独占欲だ。
 はぞくりと背筋を震わせた。こんな顔は初めて見る。なまじ物分りが良いだけに、の性癖を受け入れて愛の言葉もなくただ肌を重ねるだけの関係を続けていた兵助が、には絶対に見せなかった感情だ。欲しい、との中のケモノが訴えかける。そのまま押し倒したい衝動に駆られたが、波立ったの気配に気付いた伊作と留三郎に部屋でやれと無言の圧力をかけられ、口角を引き上げた。

「部屋で聞こう」

 学園で対天女に関しては一番の安全地帯と化している自室で。兵助はこくりと頷き、伊作と留三郎に一礼してから屋根裏を使って移動しはじめたを追った。

「……無茶しないと良いけど」
「どっちが」
「どっちも」

 兵助はに盲目だし、で緊急でもない限り理性で本能を優先。そこに今は天女なんて問題まで絡んで余計に兵助はの気を引くために必死なのだ。拍車をかけこそすれ、抑制係にはなりえない。伊作は小さく溜息をつく。

「まぁ、何とかなるんじゃないか。俺たちは関わらない方が身の為だ」
「うん。彼女の事に関しては、まずい事になったら間に入る必要はあるけどね」
「そうなる前に手を打つだろうさ。と久々知なら」
「そうだね」
「そうそう」

 珍しくも暇な保健室で、自分たち以外誰もいないのをいいことにそっと寄り添って、笑みを見合わせるとどちらからともなく顔を寄せ合った。





 部屋に降り立った途端に引き寄せられ、深く口付けられて、畳の上に押し倒されて。頭巾や結い紐、衣服を剥ぎ取られ、骨ばった手に肌を探られ、首筋に唇を落とされてねっとりと舐め上げられる。性急な愛撫に呼吸を乱し、兵助はの頭巾と元結を解いて、頭をかき抱きながら口を開いた。

「せん、ぱい……」
「ああ、話があるんだったな」
「はい……ぁっ」

 話を聞くと言いながらもは愛撫する手も唇も止めず、兵助も拒みはしない。胸の飾りをいじる指に咽喉を鳴らし、袖からのぞく白い包帯に少し瞳を揺らしながらも、その行為を受け入れる。がおつかいに出されてから一度も触れられなかった肌は兵助自身が思っていたよりも容易く火照り、熱くなる下腹に唇を震わせた。はその下唇を食んで舐める。

「それで?」
「保健、室に……んっ……行くま、えに…あの女をっ、見かけて」
「ああ、保健室も覗いていったからな」
「つ、ぎの……はぁっ…委員会に…ぅ、ん……来るって」
「……例え学園関係者であっても、教師でも生徒でもない人間が焔硝蔵に入れるわけが無いだろうが」

 は馬鹿なことをと鼻で笑い飛ばし、染まり始めた肌に顔を埋めた。

「っん…あっ……でも、あの女、本気みたいで」
「追い返す。もちろん俺はあの女とは接触せずにな。それより、この先に進んでも良いのか?」
「え……?」

 愛撫の手を止め、快楽に目を潤ませる兵助の顔を覗き込んだ。すっかりその気になっていた兵助は、の意地の悪いとしかいえない質問に数度瞬く。

「怪我が完治してから、なんだろう?」

 確かに、兵助はそう言った。の身体を思ってのことだ。けれども今はが欲しかった。忍たまの多くを虜にした女の存在は、兵助の上に影を落としていた。たとえ、が忍務対象として以外の認識を欠片も持っていなくても。

「気が変わりました」

 そう言って、手を伸ばしての顔を引き寄せ口付ける。少しばかり翳っている兵助の表情には目を細め、宥めるように唇をすり合わせ手を肌に滑らせた。膝を割って内股の柔らかな所をなで上げ、口付けて強く吸い上げる。ぴくりと反応した白い腿には痕が鮮やかに残った。兵助の唇からは熱い吐息が漏れる。反応しかけている中心には触れずに太腿や下腹に痕をつけてばかりいると、兵助は触れて欲しい場所に触れてもらえないもどかしさに小さく首を横に振った。

「せん、ぱ……」
「ぅん?」
「お、ねが……も、触って……!」
「あぁ」

 淡く染まった頬に口付け、兵助自身に指を絡める。強弱をつけながら刺激を与えると、兵助の足は快楽に跳ね上がり、唇からは嬌声が漏れた。白い踵が畳をかく。先走りで濡れた指先が水音を立て、兵助は羞恥にきつく目を瞑った。
 は何時まで経っても恥じらいの抜けない兵助の可愛らしい反応にくつくつと咽喉を鳴らして笑う。これだ。この反応がを飽きさせない。慣れたようにされては興ざめだ。閉じた瞳に目蓋の上から口付け、長い睫毛の根元を撫でるように辿る。ぴくりと薄い目蓋が震えた。
 は濡れた指を菊座へと滑らせ、二度三度と入り口を撫でる。そして、ぐっと指を中に埋め込んだ。

「うっ……や……ぁっ」

 体の内側を探る指が二本三本と増やされ、硬い中を掻き回しほぐしていく。その指が内側のしこりを強く突き上げると、悲鳴のような嬌声が聞こえ、白い肢体が跳ねた。

「ん、や……あぁっ! あ、あ……」

 は舌なめずりするように上唇を舐める。背筋を這い上がってくる快感に、兵助はの背に回していた手で強く着物を握り縋りついた。前立腺の辺りばかりをいじる指に、電流のように身体を走り抜けていく快楽を持て余し、身を捩じらせる。逸らされた顎に細い咽喉元が無防備にさらされ、は噛み付きたい衝動に駆られながらも、強く吸って痕を残すにとどめた。

「ひゃっ……せんっ、ぱぃ…や、ぁ!」
「何がだ」
「そこ、ばっかり……ん、はぁっ……も、なか、に……っ」

 欲情に掠れた声に問われ、腰に響いた声に身を震わせて、達したいのに達せないもどかしさに先の行為をねだった。快楽に溶けた瞳で見上げてくる兵助は酷く蠱惑的で、眩しいものでも見るかのようには目を細める。朱が走った目元はを妖艶な空気で染め上げ、兵助は直視していられずに視線をずらした。

「ぁ……」

 ずるりと引き抜かれた指に小さく声を漏らす。そして足を抱えあげられ代わりに宛がわれた熱に、兵助はその先にある眩暈のするような快楽と焼け焦げるような熱さへの期待に息を呑んだ。

「力、抜いとけ」
「は、い」

 熱い吐息と声が耳の中に流れ込む。それは媚薬のように兵助の鼓膜を震わせ、眦を染めて体から力を抜くように努めた。

「ぅ、ぁっ……!」
「……くっ」

 体内に押し入ってくる、指とは比べ物にならないくらいの質量に痛みを感じて呻く。はそれでも受け入れようと深呼吸を繰り返す兵助の背を撫で、首筋に何度も口付けを落とした。そうすることで狭い体内で締め付けられ、あっという間に限界を迎えてしまいそうな己の気を散らす。
 ややあって自身を全て埋めると、兵助が体の奥深くまで入り込んだに馴染むのを待った。さっさと動いてしまっても良いが、与えたいのは痛みではなく快楽だ。そう間を置かずに、男を受け入れる快楽を知っているそこはの存在に馴染み、拒絶するかのようだったそこが柔らかに絡みつく。兵助も甘い吐息を漏らし、の背にまわしていた指先が服越しに肩甲骨の辺りを探った。

「ん、はぁ……っ」
「動くぞ」

 耳の淵を唇で辿りながらの言葉に、兵助は体内を満たす充足感に言葉もなくこくこくと頷く。目尻に滲む涙を舐めあげ、は兵助を喰らい尽くしにかかった。

「んぅ…あっ、あ、ぁん、あぁっ!」

 何度も奥底を穿つ熱に、くんっと背筋を逸らし、高く嬌声が響き、つま先までピンと伸ばされた足が宙を蹴る。
 服越しに立てられる爪と甘く絡みついてくる兵助の内部に、はっと熱を帯びた息を吐き出し、熟れた果実のような唇に噛み付くように口付けた。

「ん、んぅ……ぁふ、はぁっ、んんっ……!」

 何度も角度を変えて唇をすり合わせ、舌を絡ませる。体の奥から容赦なく与え続けられる強い快楽と酸欠寸前まで追い詰めてくるの唇にくらくらしながら、兵助はこのまま溶けてしまいそうだと思った。揺さぶられる身体と快楽に、の背に回していた左腕がずり落ち、掴まる場所を探すようにひらひらと宙を掻く。その手を捕まえて指を絡ませ顔の横に縫い付ける。しっかりと触れ合った掌に何故か安心感がわいて、兵助は眦からぽろりと涙を零した。
 解放された唇で、を呼ばう。

「せん、ぱぃ……、せ…ぱ……!」
「兵、助……」
「ぁ、あぁっ……ん、も、もう……っ」
「はっ…イけよ」

 キツク締め付けてくる内部に熱い吐息を零し、目尻からこぼれる涙を舐めあげては艶やかな笑みを浮かべた。

「あ、あ……や、ああぁっ!」
「っ……!」

 一際高い嬌声と共に達した兵助の体が跳ねる。上がる息に胸を弾ませ、真っ白になった視界と体の奥で打ち付けられた熱に唇を震わせて、焦点の合わない瞳を閉じた。
 そのどこか恍惚とした表情に、は目を細め、二度三度と触れるだけの口付けを贈る。そうして身を離すと、手ぬぐいで軽く身体をぬぐいはだけた着物を調え、上着だけを脱いだ。兵助の手で解かれ、乱れた髪を掻き揚げる。手ぐしで整え襟元で軽く結うと、同じように兵助の身体を軽く拭い、白い肌をさらしたまま目を閉じて動かない兵助に己の上着をかけて部屋の隅においてある桶を手に取った。

「せんぱい……」
「湯を汲んでくるだけだ」

 袴の裾を指先で引っ掛けるようにして掴み、とろりとした瞳で見上げてくる兵助の額をなで上げ、微笑む。はにかむように瞳を揺らし、視線を落とした兵助は小さく首を振り、重い両腕を伸ばしての首筋に絡めた。中途半端に浮き上がった身体に、がかけた上着がはらりと落ちる。

「もう一度……」

 囁くようにしてねだられた魅力的な言葉に、は目を細める。背骨の形を確かめるように、指先で背を撫で下ろすの指に、兵助は小さく息を漏らした。そんな兵助に、は宥めるように額に口付ける。

「駄目だ。もうすぐ夕飯だろう」
「……はい」

 名残惜しそうにそっと腕を解く兵助の額にもう一度口付け、髪を撫でた。

「もう一度と言うなら夜にまた来い。好きなだけ抱いてやる」

 背に腕を回して抱き寄せ、鼻先をしっとりと汗ばんだ髪に埋めながら誘うに、兵助はふるりと身体を震わせた。躊躇いもせずにこくりと頷いて、の顎先に口付ける。
 再びくたりと畳の上に沈んだ兵助に上着をかけなおし、入ってきたときとは違い普通に戸を開けた。もちろん罠を発動させるなどという愚行は犯さない。器用に罠地獄を潜り抜け、風呂場へと向かった。を探して徘徊している女も今の時間帯ならば、流石に仕事に戻っているだろう。
 少しばかり発散できた鬱憤に、の唇は弧を描いた。やはり兵助の肌は誰のものよりも心地よい。体の相性が良いのだと実感する。あれはまた夜になれば己が身を差し出すのだろう。全身で己が愛した男を求めて、が求めるままに啼き声をあげるのだ。
 くつくつと咽喉を震わせて笑いながら、そんな必死な様子が可愛らしいと思う。おそらく、はもう久々知兵助という存在に落ちているのだろう。けれども自分から言ってはやらない。あれが本当にをなりふり構わず求めるまでは、せいぜい振り回させてもらおう。そっけない態度で溺愛して、甘く囁きながら冷淡に突き放すのだ。けれども度が過ぎぬように、諦めて手を離すことの無いように加減しながら。我ながら最低だと思うことすら鼻で笑い飛ばして、くるりと桶を指先で回した。

 一人部屋の中に残された兵助は、裸体の上にかけられた己のものよりも一回り大きい着物を引き寄せ、体を丸めて包まって鼻先を埋める。汗を掻いた所為で薄い体臭が移り、まるで抱きしめられているようだとうっとりと目を閉じた。
 どうやってあの女を焔硝蔵に近づかせないようにするべきかを考える。あの女はきっとタカ丸に連れられて焔硝蔵に来るのだろう。その側には三郎次もいるに違いない。に会うためという目的ではなく、きっと生物や会計や図書委員会に入り込んだときのように火薬委員の手伝いという理由をつけて。けれども焔硝蔵に学園内にいるだけの一般人が入って良い訳が無い。それを理由に追い返すことも出来る。
 だが、それだけでは弱い。あの女はきっとが姿を現すまで何処までも食い下がるだろう。ならば、感情の矛先を変えるか。好意をに向けるのならば、悪意を、もしくは嫌悪感を己の方に。そうすればに近づきにくくなるかもしれないが、それも手のひとつ、と目を閉じる。そうするにはの許可も要るが、きっとあの人は面白そうに良いと言うのだろう。
 湯の入った桶を片手に障子を開けるの気配に目を開け、片手を伸ばしながら、兵助は淡く笑みを浮かべた。




 ………………………………。(汗)
 やっちまいました【艶にて候ふ】で裏。仙蔵は駄目だけど兵助ならいけるという事実が判明。でも3日かかりましたよ、エロシーン書くだけで3日。どんな表現よりも難しかったです。ド下手な自覚があります。泣きそうになりながら書いてました。主に夜中に一人で。人がいたら流石に気まずい……。
 ちなみにここでR18的展開になる予定はありませんでした。でも冒頭部分書いた時点で決定。結構禁欲期間が長かったらしい艶主が自重しませんでした。


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