掌に握られた希望の数



、お前何を考えている」
「……お前こそ何をやっている」

 夜中。何やら見知った気配にが目を覚ますと、髪を下ろした超のつく美人、作法委員長こと立花仙蔵が馬乗りになって顔を覗き込んでいた。乗られるよりも乗るほうが好きなんだがとか思いながらも、胡乱な目で仙蔵を見上げたの台詞は妥当なものだろう。
 の腹に座り込んだ仙蔵は、ふんと鼻を鳴らした。

「お前の上に馬乗りになってお前を問い詰めているのだ」
「相変わらずだな、お前」
「二週間やそこらで人は変わらんさ」
「変わる奴も居るだろう。小平太は輪をかけて五月蝿くなった」

 学園も騒々しい、と顔を顰める。心底嫌そうな顔をするに、仙蔵も同じく険しい表情を浮かべた。

「それだ」
「……ああ、あの女の話か」
「そうだ、ずっと見ていただろう」
「お前もか」

 ふっと、小さく息を吐く。仙蔵はその柳眉の片方をくいっと持ち上げた。お前「も」? と言う事は以前にも同じような事を聞きに来た人間が居たと言う事だ。と言う男に仙蔵が尋ねた事と同じ内容の質問をするような人間は、仙蔵が知る限りたった一人だ。それに出遅れた事を知り、の顔の両脇についた手に思わず力がこもる。

「……久々知か」
「そ。数日前にな。相変わらず肌も髪もしっとりしてて体の相性抜群」
「そうか、よかったな」

 至極楽しそうなにとげとげしい口調で返しながら身を起こし、露になった白い太腿を撫でる手をぴしゃりと叩いた。もただ手持ち無沙汰に触れていただけなので、あっさりと手を離し布団の上に落す。たやすく離れていったの手に、これが久々知ならば離しはしないのだろうと詮無いことを考える。とたんに胸が苦しくなった。その感情の正体を仙蔵は知っていた。嫉妬と羨望だ。けれどそんな考え事と感情を抱いた自分を認めることが出来ず、眉間に皺を寄せ故意に無視する。

「で?」
「あの女のことなら小平太が五月蝿いから観察していただけだ。個人的には俺に害が無いならどうでもいい」
「なんだ、排除したいとは思わんのか」
「状況がこれ以上悪くなれば考えんでもないが」
「今の時点で最悪だと思うがな」
「そうでもないさ。教師陣は冷静だ。うちの学年は俺たちを除いては組の二人が残ってるし、兵助が言うには五年の筆頭生徒はだいたい正気。四年生も平、田村があの女を敵視してるな。二年三年はほぼ全滅だが意外にも一年は組が近づきたがらない」

 くつりとは笑う。けれどもその目は冷たく凍りついていた。に学園に居座る「天女」の話を持ってきたのは一年は組に所属する可愛い後輩だったが、確認した限りでは彼女を「天女」だと信じているわけではなく、が留守にしている間にそう呼ばれている人物が学園に来たと言う事を知らせに来ただけだったのだ。多くの生徒が惑わされていると言うのに、大したものだ。

「その中に綾部も加えておけ」

 一年生の顔を思い出して機嫌よくくつくつと笑い出したに、仙蔵は溜息を吐いてそう言った。




ちなみにこの後仙蔵は腹の上からどかされて部屋から追い出されます。


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