猛獣の飼い方10の基本



あるていどのきけんをかくごしましょう





 こんにちはモブAです。存在するかしないか原作で明らかになっていない五年は組所属の一生徒です。名前すら存在しないのはモブだからデフォルト、当たり前。そんな訳で黒子的に日々モブモブしく生きています。別に名前なんて無くてもそんなに不便じゃないし、メインキャラ達のように出番があるわけでもなし。メインキャラはなんだか大変なことが多い――厳禁シリーズ時の六年い組の某作法委員長だとか、不運が個性な某保健委員長だとか――ので、モブである事に俺個人では至極満足してます。このまま一生モブでいた方が幸せだと思います、正直。忍として生きて悲惨な最期を迎えても、まぁこの時代だし仕方ない仕方ない。
 そう、思っていたんだけど。

「最近何だか視線が突き刺さってるような気がする」
「気のせいじゃなくて事実だ」
「わかってる。現実逃避くらいさせてくれ」

 同室の親友に相談した所バッサリ切られてしまった。いや、確かにその通りなんだけど気休めでも少しくらい慰めてくれても良いじゃないか。
 いじけていても親友はキモイとしか言ってくれないので、俺は深々と息をついた。ここ最近視線が痛いのだ。しかもその視線の持ち主は六年生の課題さえもやり遂げてしまう五年い組の実力者、久々知兵助。所謂メインキャラの一人だ。気がつけば大きな目でじーっと見てくださる。しかもアレは獲物を見る捕食者の目だ。超怖い。

「お前何かしたか?」
「してない……ハズだ」

 だって俺名前も無い顔すらはっきりしてないモブだし、メインとの絡みなんてそうそう無いし。

「久々知と話したのってこの前のクラス混合の実習で組んだ時くらいだぞ?」
「その時に久々知の気に障るようなことしたとか」
「特に何かをした覚えは……」

 眉間に皺を寄せ、何かあったかと記憶を辿る。特に変なことも無い普通の実習だった。クラス混合の札取り合戦。珍しくも久々知が着地するにも怪我しそうな危ない体勢で木から落ちかけて助けたことはあった、が。

「……あるかもしれない」
「……何やったんだ、お前」

 暗い影を背負って、えーもしかしたらあれかもと思い出した事実に顔を引きつらせると、親友も同じように顔を引きつらせ、聞きたくないと顔面にでかでかと書きながら訊ねられた。

「久々知がちょーっとピンチに陥った時に助けたんだが」
「……別に恨まれることでもないよな、感謝されこそすれ」
「その時の体勢が最終的に姫抱っこ」
「あー……」

 それは確かに嫌がるかもしれない。男なら。
 親友はそう呟き、ぽんと俺の肩を叩いた。それなら仕方が無い大人しく制裁を受けておけと表情が語っていた。他人事だと思ってと睨みつけても、他人事だと言われてお終い。

「助けてくれねーのかよ」
「馬鹿言え。俺たちモブがメインキャラに対抗できるわけが無いだろう」
「……そーですね」

 そうだよな、俺たちモブだもんな、メインキャラに勝てるくらいなら今頃メインキャラになってるよな!
 結果的に俺はがっくりと肩を落とすしかないわけである。はぁ。

「まぁ、頑張れよ
「おぅよ、
「「……ん?」」

 自然と口から漏れた固有名詞に、一瞬後に疑問が持ち上がり顔を見合わせる。するとどうだろう、そこには驚愕の表情を浮かべた茶髪茶目のイケメンが。そいつの目の中には黒髪黒目のハンサムが同じく驚愕の表情で映っていた。
 目の前にいる奴は親友のはずだ。今さっきまで、俺と同じように顔も名前もぼんやりしていたはずの存在、のはず。で、奴の目に映るのは自分しかいないわけで。

「「嘘だろ……!?」」

 愕然とした言葉が異口同音に発され、俺たちはぽっかりと口を広げた。
 俺たちはモブである。モブのはずだ。さっきまでは確かにモブだった。なのに名前がある、姿がある。今、さっき、存在が確立された……? んなアホな。

「し、死亡フラグは嫌だーーー!!!」
「あー、頑張れ、君」
「他人事だと思いやがって!」
「他人事だからな。俺はきっとお前につられただけ」
「ちきしょう、親友の癖に!」
「親友だからだろ」

 しれっと返してくれやがった親友――をギリギリと睨みつける。
 そんな態度取るなら、もしお前が俺と同じような状況に陥っても助けてやらないからな、この薄情者!


(文武両道は久々知兵助の代名詞)(そんな相手にモブ…だった俺が勝てるわけ無いだろ!)(誰かたっけて……!)


















































じぶんをしゅじんだとにんしきさせましょう






 じーっと、その日も兵助は大きな目で彼を見つめていた。五年は組の彼。名前は……そうそうだったかな。少し前の実習で、兵助と組んだ男だ。その実習の最中に助けられてから、兵助はずっとを見つめている。いや、睨みつけてると言っても良いかもしれない。実際はそう思ってるみたいなんだよね。兵助の視線が突き刺さった瞬間びくって肩が震えて、一瞬恐ろしそうに顔を引きつらせるの。
 きっと好かれてるだなんて欠片も思ってないよねぇ。

「兵助」
「何、勘ちゃん。用事ならちょっと後に回してくれる? 今俺はを見るのに忙しいから」
「それだよ、用事は。止めなさいって言ってるだろ」

 脳天に手刀を軽く振り下ろして、両手で頬を挟んで無理やり顔を逸らさせる。そうするとはあからさまにほっとしたような顔をして緊張していたらしい肩を落とし、同室の友人であるに背中を叩かれていた。あ、いいな。そう思った瞬間にがちらりとこっちを向き、小さく笑みを見せた。どきりと、心臓が一瞬高鳴る。わ、わ、わ、嬉しいな。多分、兵助の意識を親友から逸らしてくれた礼って所なんだろうけど。

「勘ちゃんずるい。はこっち見てもくれないのに」
「それは兵助が怖い顔してを睨んでるから」
「睨んでない」
にはそう見えてるんだよ。だから避けられてるんだっていい加減気付いて」
「……そうなのか?」

 表情の変化が薄いからぱっと見よく解らないだろうが、ショックを受けたような顔で兵助はおれの顔を見る。そうそう、そうなんだよと頷く。傍目そうとしか見えないんだよ。まさに獲物を定めた捕食者の目。それが恋愛感情だって知ってるのはおれとろ組の三人くらいじゃないかな。
 やっと理解してくれたみたいで嬉しいけど、だからといって兵助のこの行動が直るとも思えない。だって今までも人を凝視するのは止めて話しかけに行きなさいって言ってるのに、兵助ったら何て言っていいかわからないって言ってまた凝視するだけなんだもん。それでは兵助を怖がって避けて、兵助はを見つめて悪循環。
 ああもう、本当にどうにかしてほしいよ。じゃないとおれもに近づけないじゃないか。

「どうしよう……」
「既成事実デモツクレバー」

 そろそろ相手をするのが面倒になってきて、超絶的にテキトーに返事をする。棒読みで。もちろん冗談だ。けれども兵助はそう思わなかったみたいで。

「おぉ」

 名案・超納得みたいな顔をしてぽんと手を叩いてくださいまして。何やら考え込み始めた。潤滑油がどうとか媚薬がどうとか物騒な単語が聞こえるんだけど。え、ちょっと待って兵助。

「ちょ、ちょっと兵助!?」
「よし、思い立ったが吉日。って事で勘ちゃん、今夜行ってくる!」
「兵助、ちょっと待って! 冗談だったんだけど!?」
「でも俺は本気だから!」
「へーすけ!?」
を部屋から追い出したら勘ちゃんのところに行くようにしてあげるから協力よろしく!」
「まかせて!」

 何とか止めようとしたけれど、おれの想い人の名前を出されてサムズアップ。だってねぇ、好きな人とは一緒にいたいじゃない。には可哀想な事したと思うけど、おれと兵助の幸せの為に頑張って。少し距離の離れた部屋から応援してるよ。



((ぞくり))(「な、なんか今寒気がしたんだけど」)(「……俺も」)((なんか嫌な予感が……))


















































せをむけてはいけません





 何でこんなことになってるんだろう。そう思い、遠い目をしてしまったとて、俺は悪くないはずだ。本当になんでこんな事態になっているんだろうか。
 風呂上りに、廊下で、五年い組の久々知兵助に背後を取られ、クナイを突きつけられている、なんて。背後を取られるのは忍としては致命的だが、あの久々知相手ならば仕方ないと言うべきだろう。もうちょっと気配を読み取れるようにしなきゃなぁとも思うが、それは今は置いておくとして。何で俺は久々知にクナイを突きつけられているのだろうか。久々知に睨まれていたのは我が同室者で親友のであるはずなのに。
 睨まれていたのは本当はじゃなくて俺だったのだろうか。いやいや、確かに視線はをどすっと貫いていた。断じて俺じゃない。それくらいの判断はできる。

「えーっと、久々知さん、何か御用でしょうか」
「うん。今夜から朝方にかけて部屋に帰らないでくれないか?」
「へ?」
「その代わり俺たちの部屋に行っててくれていいから。というかむしろ行け」
「……何で?」

 俺の質問に突きつけられたクナイがぴくりと震える。そして久々知が至極あっさりとのたまった言葉に目が点になった。

「既成事実作るのに邪魔だから」

 ……はい?
 キセイジジツ。きせいじじつ……既成事実!?
 あんぐりと馬鹿みたいに口を開いてクナイが突きつけられていることも忘れ振り向き、久々知を凝視した。凄い事を口にした割に、久々知の表情はまるきり変わっていない。いや変わっているのかもしれないが俺にはわからない。俺の動きに滑らかな動作で遠ざけられたクナイを懐にしまう久々知に、俺は顔を引きつらせたままで確認した。

「つまり、その、久々知はあいつ……の事が好きだと」
「そういう事だ。だから今夜は部屋に帰るなよ」
「あー……はい」

 ついつい迫力に押されて頷いてしまった。俺の返事に満足そうに頷いて踵を返した久々知の背を見送りながら、友人を売ってしまった事に気付いて頭を抱える。しかしながら今更撤回は出来まい。そんなことをしたらきっと、今の久々知の様子からして敵と認識されるに決まっている。

「すまん、

 謝った所でどうしようもないのだけれど。
 深々と息を吐き、がいない間に着替えやら元結やら必要なものを持って久々知たちの部屋に移動せねば、と明後日の方向を見ながら思った。いやしかしまさか、久々知がの事を好きだったとは。嫌われてなくて良かったと言うべきか。逃げられないことに変わりはないけれど。



(お前を売った俺が言うのもなんだが頑張れ)(「の薄情者っ!」と叫ぶ声が聞こえてきそうだ)(久々知たちの部屋に行くのは良いけど、尾浜はこのこと知ってるのかなぁ?)




















































むりにいうことをきかせようとしてはいけません





 えーっと、何でこんな事になってるんでしょう。
 風呂上り、布団に寝転んで、でもなんだか胸騒ぎがして眠れずにいると、静かに障子が開けられた。最初は親友が帰ってきたのだとばかり思っていたのだが、俯いていた身体を仰向けに直され、マウントポジションを取られて初めてそれが久々知だと気付いた。いやいや、駄目だろ自分。親友じゃない事くらい部屋に入ってきた瞬間に気付かなきゃ。これが知られたらに怒られるかも。
 何をされるのかと恐怖を覚えながらも現実逃避のようにつらつらと考えていると、久々知が俺の顔の両脇に手を突いて覆いかぶさるようにして俺を見下ろした。結われていない髪がふわりと俺と周囲を遮断するように、横側に降りてくる。えーっと……。

「あの、久々知」
「兵助」
「は?」
「兵助」
「……兵助、君」
「君はいらない」

 苗字で呼びかけると己の名前を連呼する久々知に、どうやら名前で呼んで欲しいのだと気付いて、敬称をつけて呼ぶと今度は呼び捨てにしろといわれた。従わないとどうやら話も進みそうに無い雰囲気です、何これ。

「兵助」
「うん」

 なんだか嬉しそうな顔で微笑まれました。あ、可愛い……っじゃなくて!

「何か怒って、ます、か?」
「何を怒るんだ?」
「この前の実習、とか」
「……何かあったか?」

 質問に質問で返されて、思い当たる事を口にしてみると本気で解らないらしく首を傾げられた。ええと、怒ってはいらっしゃらないご様子。できればうやむやで終らせたいが、俺の上に馬乗りになっている久々知は気になるようで、大きな目は話せと雄弁に語っていた。

「足滑らせて木から落ちかけて助けた時に、助けた体勢が、姫抱っこ、で……」
「ああ、うん、ときめいた」
「だろうな、とき……はい?」

 今なんと仰いましたか久々知さん。愕然とした表情で久々知の顔を凝視すると、白い頬がほんのりと染まり、はにかんだように笑った。

「あんな風に守るように抱きかかえられたのは初めてだったから、凄くどきどきした」
「……いや、それは落ちたことに驚いていただけでは」
「俺もそう思ってずっと見てたんだけど、あの時だけじゃなくてを見てたり思い出したりすると鼓動が早くなって顔が熱くなるんだ」
「つまり、その、久々知は」
「兵助」
「…兵助は、俺のことが、好きだと」
「うん。好きだ、

 ぽっと赤くなった頬に熱っぽく潤んだ瞳、あからさまな程に恋をしている人間の顔だ。
 いや、あの、正直こんな展開は予想だにしていなかった。てっきりこの間の演習で学年でも五指に入る実力者のヘマをガン見した上に姫抱っこした事に怒っていると思っていたのだ。まさかまさかまさか、この、久々知兵助がモブでしかない(いやモブでしかなかった?)俺を好きだとか言い出すなんて。

「でも」

 驚愕のあまり久々知を凝視してばかりいると、切なそうに眉間に皺を寄せ、少し顔を寄せられる。

は俺の事避けてるし、勘ちゃんがじっと見てるのが睨まれてると思われてるんじゃないって言うし」

 ああうん、ぶっちゃけ俺もそう思ってました。
 久々知の訴えに、痛いほどの視線を思い出し頷いていると、次に発された久々知の言葉に、俺はただ固まるしかなかった。

「人を恋愛感情で好きになったのなんて初めてだし、どうしたらいいか解らないから勘ちゃんに聞いてみたら既成事実でも作ればって言うから」

 ……はい?
 最後の言葉を理解することが出来ず固まる俺に、久々知は少し恥らったように首を傾げて笑みを浮かべた。

「大丈夫、男とやるのは初めてだけど予習はしてきたから」
「何のよしゅ……いやいや、それよりもちょっと待て、久々知!」
「兵助だってば。大丈夫、は快く部屋を交換してくれたから今日は帰ってこない。安心して身を任せてくれ」
「っ……!?」

 あいつ、メインキャラの中でも優秀な久々知には勝てないからって親友を売渡しやがったな!? なんって事してくれやがるんだ、あいつはっ。っというか尾浜、久々知になんてこと吹き込んでやがる!
 口吸いをしてこようとする久々知を止めようと腕を突っ張るものの、元モブ(っつーか今も絶賛モブのはずっ!)の俺が対等に勝負できるはずもなく、久々知との距離は縮まるばかりだ。半ばパニックを起こした俺は、唇が触れるまで後一寸も無いという状況で、最後の抵抗とばかりに口を開いた。

「……突っ込まれるのだけは勘弁っ!」

 そう宣言すると、久々知は大きな目を瞬かせ俺の顔をじっと見つめたかと思うと、ニコリと笑い。

「じゃあ、俺がネコでいいや」
「え゛……」
「大事なのは既成事実を作ることだし、抱かれてもいいって思えるくらいにはの事好きだし」
「止めるという選択肢は……」
「無い」

 きっぱりと言い切って下さいましたよ、この人。呆然としたまま見上げていると、久々知は長い睫毛を伏せて俺の唇に口付けた。あ、意外と久々知の唇って柔らかい……って、そうじゃなくてっ。

「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!!!!!!!!!」

 俺が上げた声無き叫びなんて、きっと誰にも届いちゃいないんだろうな。
 そんな考えが浮んだのは事が終わり、久々知が顔色は悪くても満足そうな顔で俺にしがみついて眠ってからの事だった。



(俺よりも細くて小さいはずの久々知に押し倒されて起き上がれないなんて……!)(悔しい、物凄く悔しい!)(明日から鍛錬増やそう、せめて久々知を押し倒し返せるくらいには!)(……アレ?)


















































あまやかしすぎはいけません





 俺が久々知に悔しい事にも襲われて――断じて突っ込まれてはいない。あの日の宣言どおり受け入れたのは久々知の方だ――から数日後。ヤツは俺の部屋に来て「今日は帰ってこないから」と初日と同じようにのたまい、また俺を押し倒して馬乗りになった。嬉しそうに俺の顔の輪郭を指でなぞる久々知の顔は艶やかで、腹部に密着している久々知の中心が反応しているのがわかる。俺に対して欲情してるんだろうけど、凄く微妙な気分だ。
 顔は可愛いのに。

「……久々知」
「兵助」
「へーすけ」
「うん、何?」

 可愛らしく頬を染めて小首を傾げる。前よりも少し色気が増したような気がする。下世話な言い方すると俺が突っ込んだ所為――つまりはまぐわった時に女役になったからか、この変化の仕方は。

「あー、その、今日はやめねぇ?」
「何で?」
「……前、痛そうだったし、そう日も空いてないだろう?」

 心底不思議そうに首を傾げた久々知に顔を引きつらせながら言うと、久々知はぎゅうっと眉間に皺を寄せ、次いで眉尻を下げて情けない…というか悲しそうな顔をした。

「久々知?」
「前……」
「うん?」
「前の、気持ちよくなかったか?」
「え゛……」

 思わず言葉に詰まる。気持ちよかったか気持ちよくなかったかと聞かれると、圧倒的に前者だ。物凄く気持ちよかった。もしかしたら女相手よりも体の相性が良かったかもしれないと思うくらいには。それに何だ。痛みと苦しみに顔を歪めながらも嬉しそうな久々知の様子だとか、あえかな吐息や喘ぎ声だとか、焦点をなくした瞳だとか、凄い好み……いやいやいや。違う、俺はノーマルだった、ハズ。

「気持ちよくなかった……?」

 本当に不安そうな潤んだ目で重ねて尋ねられ、視線をバタフライの如く激しく泳がせた後、小さくふるふると首を振った。勿論横にだ。
 すると久々知はほっとしたように息をつき、嬉しそうにはにかんだ笑みを浮かべた。ああもうホント、可愛いんだから。
 何となく負けたような気になって――誰だ最初から負けっぱなしだろうとか言ったヤツ!――深々と息をつく。まぁ、勝てるわけないのだ。所詮はモブ上がりの新米、名前と顔がついただけでメインとは程遠いのだから。

「気持ちよかったならいいだろう」
「あー、でもお前、この前、終った後顔色が……」
「心配してくれるんだ」
「まぁ……」
「俺なら大丈夫。がくれるなら、それが痛みでも嬉しい」

 頬を染められてそんなことまで言われてしまえば、何を言えるというのか。中身の無い薄っぺらな言葉が通じるわけが無いではないか。
 これはもう白旗を揚げるしかなく、俺は小さく息をついて、重ねられる唇を素直に受け入れた。



(拒絶したいのに拒絶できないなんてこれやいかに)(もしかしてまぐわったことで情でも移ったのか、久々知に……)


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