なつくとたのもしいそんざいです





 視線が痛い。
 教科書を開き、書き損じた紙の空いているスペースに筆を走らせながらも、背中から突き刺さってくる視線に集中なんて出来るはずもなく、俺はぴくりと口元を引きつらせた。
 我が親友は部屋を追い出される事に早々に慣れてしまい、今では久々知が顔を見せるとすぐにお泊りセット――風呂敷に一式まとめて普段から作ってあるのだ。けっ――と勉強道具を持って久々知たちの部屋に行ってしまっている。今日は試験前ということもあって、尾浜に勉強を教えてもらおうと言っていた。どうやら追い出されるたびに世話になっているうちに仲良くなったらしい。大変甲斐甲斐しく世話を焼いてくれるのだとか。
 それがきっと尾浜の狙いだ。尾浜がを見る目は久々知と似通った――つまり獲物を狙う猛獣の目の――雰囲気がある。けれど絶対に助けてはやらないのだ、ヤツは俺を久々知に売ったんだからな! その恨みも最近めっきり薄れていたりするが。
 それもこれも久々知が可愛すぎるのだ、と言い訳をしておく。今もじっと俺が勉強を終らせて構ってくれるのを、今か今かと大人しく待っているのだ。突き刺さるほどに凝視してくださっているが。
 ちらりと、後ろを振り返る。すると久々知はぴくりと反応を返し、表情を明るくした。思わずたじろいでしまう。この、久々知の嬉しそうな顔というか笑みというか、つまりは可愛らしい顔や反応には弱いのだ、俺は。

「あー……く、じゃない、兵助」
「何だ、終ったのか?」
「いや、まだだけど」
「そうか……」

 しゅんと、肩を落とす。その仕草に思わずぎくりとした。駄目だ放っとけねーよ、何だこの可愛い生き物。でも明日のテストを落すと長期の休みは補修で消える事になる。それだけは嫌だ、長期の休みは休むためにあるのだ、補修なんかで潰されて溜まるか。カンニングは認めないと最初から言われている以上、今勉強しておかなければ危ないわけで、構って欲しそうにしている久々知の願いを叶えてやるわけにもいかない。

「俺今日は構ってやれないから、部屋に帰るかもう寝るかしたらどうだ?」
「……部屋に帰ったら勘ちゃんが怒る」
「あぁ……」

 眉間に皺を寄せて、さも恐ろしげに声を震わせる久々知に、そうだな尾浜はが好きだもんな、邪魔したら怒るよな、と思わず遠い目をしてしまう。乾いた笑い声を上げるしかない。

「それに、まだ寝ない」

 久々知が俺の背中にぴとりと張り付く。背に触れたぬくもりにぞわりと肌が粟立つ。反射的に引き剥がそうとする身体を理性で押さえつけ、筆を握る指に力を込めた。そして意外と冷静な思考で、忍としての体が作り上げられてんな俺、とか考えた。それにしても背中は正直止めて欲しい。
 ゆらゆらと筆先を紙の上で遊ばせて、忍たまの友を睨みつけていると、背中にぴとりと張り付いて俺の手元を覗き込んでいた久々知が身体を離し隣に座り込んだ。

「教えようか?」

 ことりと首を傾げながら見上げてくる久々知に、目を瞬かせる。そう言えばこいつは文武両道、つまりはとても頭のいい優秀な忍たまなのだ。勿論俺は戸惑う事無く頷いた。

「頼む」

 その後浮かべられた嬉しそうな笑顔の可愛いこと。思わず笑みを浮かべると久々知は頬を赤く染めて視線を忍たまの友へとずらした。
 テストの点数はと揃って過去最高の得点を叩き出した事は言うまでも無い。



(おっしゃー、休みゲットー!)(……、お前らカンニングしたんじゃないだろうな)(ひっでー先生!)(俺はい組の尾浜勘右衛門に教えてもらいました)(俺は久々知兵助!)(あー、なるほど)(でも何でお前らがあいつらに)(聞かないで先生……)(部屋を追い出されて仲良くなりました)(はぁ……?)





















































いがいときずつきやすいいきものです





 今日もまた構ってくれなかった。
 自室に敷かれた布団の上にぱたりと倒れ伏して、膝を抱える。その時に髪を巻き込んでしまったようで頭皮が引っ張られて痛かったけれど、身体を起こしてまた寝ようという気力も無かった。はっきり言ってライフポイントはゼロに近い。
 ここの所とはまともに会っていない。言葉すらも交わしてはいない。だから、せめて会話くらいはしたかったのだが、鍛錬に精を出すの顔はとても真剣で声をかけることすらも気が引けて、それすらも叶わないのだ。そんなも恰好良いし眺めているだけでも胸はときめくが、寂しくて仕方が無かった。

「兵助、今日も駄目だったの?」
「うん……」
「声かければ相手くらいはしてくれるだろう? なら」
「でも邪魔したくないから」

 鍛錬している姿は鬼気迫るほどに真剣なのだ。邪魔などできないししたくは無い。そんな事をして今でもそれほど大きくは無い俺に向ける好意が減ったら嫌だ。(←最重要事項)
 無理やり押し倒し体の関係を持ってそれを今までずるずると続けてはいるが、それぐらいはいくら俺でも理解していた。
 掛け布団を引き寄せ、もごもごと布団の中にもぐる。そんな俺に呆れたような勘ちゃんの視線が突き刺さり、小さく溜息が零される。

「…おれはに会ってくるよ」
「うん……」

 ぽんぽんと布団の上から頭を叩かれる。それに頷いて、ぎゅっと目を瞑った。寂しい、とても寂しいのだ。だから早く眠って、明日また頑張ろうと思った。それでもこんな時にだけ眠気は訪れず、布団の中で時間だけが過ぎていく。
 どれだけ時間が経ったのか、障子がからりと開けられ、閉じられる音がした。勘ちゃんが帰ってきたのかとも思ったけど、気配が違う。その気配は俺の近くに留まり、そっと腰を下ろした。何だろう、というか誰だろう。

「……兵助、もう寝ちまったか?」
!?」

 思いもかけない人物の声に、思わず跳ね起きる。は勢いよく飛んだ布団と起き上がった俺に驚いたのか目を丸くして、俺と勘ちゃんの布団の間に胡坐をかいて座っていた。ぱっと頭に血が上っていくのが解る。
 思わず抱きつくと、見た目よりも広くしっかりとした胸板は揺らぎもせずに俺を受け止めて、長い腕は俺の背に回される。その手が宥めるように俺の背を叩いて、乱れた髪を整えるように梳く。
 嬉しい、嬉しい、嬉しい、本物のだ!
 ぐりぐりと肩口に額をこすりつける。

、鍛錬はもういいのか?」
「ああ。やりすぎは逆に身体を壊すからな。見てたのか」
「う、ん……邪魔、だったか?」
「いや、別に気にはならなかったけど」
「良かった」

 ほっとして笑みを浮かべると、は一瞬瞠目して、苦笑のような笑みを浮かべた。その笑みが俺に対する呆れのようなものだったとしても背に添えられたままの手が嬉しくて、ぴとりとくっついて目を閉じる。小さな子供をなだめるように背を撫でる大きな掌が心地よくて、さっきは望んでも全くやってこなかった眠気がふわりふわりと降りてきた。
 が傍にいてくれるのにもったいない。
 そう思っても体は言う事を聞かずに、呼吸する毎に意識は夢殿への入り口へと降りていった。
 完全に眠りに落ちる前に、が優しい声で「おやすみ」って言ってくれたのが、嬉しくて嬉しくて仕方がなかった。



(それにしても尾浜が言ってた久々知の悩み事って何だろう)(よく眠れてないから寝かしつけてくれとも言ってたけど、これで良い訳?)(あー、まぁ、依頼は達成ということで俺も寝よ)





















































きちんとききかんりをしましょう

性的表現注意!




 今まで以上にアホのように鍛錬を繰り返し、頭が痛くなるほど人体に関する勉強をして――は組の連中には熱があるのかと心配され、には生温い視線で見られた。失礼な――担任に褒められる程度には知識も増えて強くなった。まぁ、その時の台詞は感動してるんだか馬鹿にしてるんだか微妙な感じだったがな。
 そんな訳で、今夜は久々知にリベンジしたいと思います。

「と言う訳で、お前今夜帰ってくんな」
「それはいいけどさ……」
「けど?」
「お前それ、久々知を」
「解ってる。皆まで言うな」

 襲い返すって事は、ようは久々知の気持ちを受け入れるって事で。まぁ受け入れる入れないの前に関係だけ結んじまってたわけだけど。それでもそれは久々知からの一方的とも言える接触で、俺からあいつに触れに行った事は無い。くっついているのかくっついていないのか微妙な関係を続けていたわけだ。
 俺が動くって事はその均衡を崩して、正式にあいつの気持ちを受け入れるって事だ。まぁそれでもいいかと思う。好きだといって俺を繋ぎとめようとする行動とか、頭が良いくせに恋愛ごとには疎かったりする所だとか、はにかんだ嬉しそうな笑顔だとか。そういうところが可愛いと思う。もしかしたら長く続けられるような関係ではないかもしれないけれど。

「それにヤられっぱなしは悔しいし」
「……そうか」

 やっぱり複雑な顔をして頷くに、どうせお前も同じような道を辿る運命だ、と言ってやろうと思ったが止めた。豆腐の角に頭をぶつけたくは無い。その件に関しては久々知も怖がってるくらいだし。

「まぁ頑張れ」
「……頑張るのはお前だろ?」

 思わず口に出してしまった激励に、は何もわかっていないという顔で首を傾げた。





 ぱちりと久々知は大きな目を瞬かせた。驚いているようで、何度も目を瞬かせて俺を見上げている。まぁそうだろうな。何時ものように俺に触れようとした瞬間に腕を引っ張って自分のほうに引き寄せ、布団の上に押し倒したのだ。こういうときに俺からは動かなかったから余計に。
 予定通りに組み敷けた事に心の中でガッツポーズをとり、いまだ混乱から立ち直っていないらしい久々知の頬を指先でそっと撫でた。とたんに、久々知の白い頬が真っ赤に染まる。

「あ、の、?」
「ヤられっぱなしってのは性に合わないし」
「う、うん……」
「だから今日は俺の好きにさせてもらおうと思って」
「え、あ……」
「イイ声で啼いてくれよ」

 指先で頬から顎、咽喉、鎖骨をくすぐるように辿り、にぃっと口角を引き上げる。久々知は真っ赤になった身体を震わせ、瞳を潤ませて、こくこくと頷いた。今までに見たことの無い反応だ。可愛い。いや、ホントに。
 深く口付けて、緊張で萎縮してしまっている舌を絡めて、寝間着の帯を解き、手早く衣服を剥ぎ取った。色づいた肌を指で辿って、全身を唇と舌で愛撫して、漏らされる喘ぎ声に目を細める。髪を纏める時に使う椿油を指に絡め、慎重に中へと挿入すると、久々知の体が強張った。今まで何度か身体を重ねてても気持ちよさそうにしてた記憶はないし、久々知自身は大丈夫だと言ってても、痛いもんは痛いからな。
 強張った身体を宥めるように肌に唇を落とし、中をほぐしながら身体の奥の腹側を探る。前立腺がこの辺りにあるはずなのだ。そのうち指先にしこりを見つけ、ぐっと押し上げる。

「ああぁっ!」

 一際高い嬌声が上がり、びくりと身体が跳ね上がる。あまりにも大きな反応に思わず瞬いて久々知を見下ろすと、自分の身体の反応に驚いたらしく、あからさまにうろたえていた。

「い、今の、何……?」
「前立腺」
「うそ……」

 こぼれそうなほどに大きな目を見開く久々知に小さく口付けて、見つけた場所を集中的にいじる。快楽に声を上げ、跳ね上がって逃げようとする身体を確保して、理性と身体をとろかせる。身体の深い場所で交わって、指を絡め合わせて、隙間を作らないほどに強く身体を密着させて抱き合って。背中に食い込んだ短い爪の感触が、酷く心地よかった。



(それにしても身体の相性良過ぎ。快楽にとろけた兵助は可愛すぎ)(のあんな顔初めて見た。い、色気が……! それに、あ、あんなに気持ちいいなんて)























































スキンシップがすこしはげしいです





!」

 ふらふらと図書室に行った帰りに廊下を歩いていると、いつもの五人で固まっているうちの学年の筆頭グループとかち合った。他の学年に比べて地味だとは言われているが、俺らモブとは比べ物にならねーな、やっぱり。その中にいた兵助がぱぁっとあからさまに顔を輝かせて、駆け寄ってくる。他の奴らはいいのか、兵助。

「図書室に行ってたのか?」
「ああ」

 左手に持った二冊の本に視線を落とし、首を傾げる兵助に頷き、小動物のような仕草に思わず頭を撫でると、頬が淡く染まりはにかんだ笑みを浮かべた。花とハートが飛んでるよ、おい。
 兵助とともにいる他の連中は、ろ組の三人が楽しそうな表情をしており、尾浜は目が会うとニコリと笑って、ろ組の三人組と何か話した後に近づいてきた。まぁ用件は一つだろうな、俺は今一人だし。ちなみにろ組の面々はひらりと手を振ると去って行った。もしかしたら近場で成り行きを見守っていたりするかもしれないが。っていうかもしそうだったら覗きだよな、それ。

「やぁ、
「おー。なら部屋で昼寝してるぞ」
「そう、ありがとう」
「いや。部屋に行くならついでにあいつのスペースを掃除してくれると助かる」
「いいの?」
「馬に蹴られて死にたくないからな」

 を落す邪魔をする気は無いと言い切ると、尾浜は表情を若干嬉しそうなものへと変え、ひらりと手を振って五年の忍たま長屋の方へと歩いていった。
 あのずぼらの世話を焼くとは物好きな、と思いながら背中を見送っていると、左腕に撒きついた体温にぐいっと引っ張られた。傾いた体に左腕を見ると、兵助が面白く無さそうな顔をして眉間に皺を寄せ俺を睨み上げている。

「兵助?」
「さっきの」
「さっき……ああ、尾浜との会話か?」
「そう。何の話?」

 むうっと膨れっ面。ああ、妬いてんのか、こいつ。ぱちぱちと瞬き、口元に小さく笑みを浮かべて、兵助の前髪をすいた。

は物凄いずぼらでな」
が?」
「ああ。散らかってても自分は何処に何があるか知ってるからいいんだって言い張るし、着物はほつれてても行動するのに問題なかったらそのままにしてたり」
「俺が行く時は綺麗に片付いてるけど」
「気が向いたときに俺が片付けてんの。お前が来たときに綺麗なのはだいたい片付いて二三日以内ってのが多いからだ」
「そうなのか」
「そうなんだ。で、尾浜はあいつを落すのに、ずぼらな所につけこんでの生活に食い込むことから始めてるんだよ。俺からしちゃあ結構な長期計画だと思うけど、もしかしたら短期でけりがつくかもな、今のペースだと」

 空恐ろしいよ尾浜。
 思わず遠い目をしてカラ笑いすると、左手に抱きついている兵助は肩口に額をぐりぐりとこすりつけた。表情はわからないが、耳と首筋が真っ赤に染まっているので、きっと嫉妬した事が恥しいとか何とか思っているんだろう、多分。

、は」
「ん?」
「これからどうするんだ?」
「部屋に帰ろうと思ってたけど、今帰ったら尾浜がいるからな」
「じゃあ俺の部屋に来ればいい」

 そう言って、伺うように上目遣いに見上げてくる兵助に、小さく笑みを浮かべて頷く。そういえば兵助が俺の部屋に奇襲をかけて以来、俺の部屋でしか会ってなかったな。
 満面の笑みを浮かべた兵助に左腕を引っ張られながら――右腕じゃないのは俺の利き腕を考慮しての事だ――もう今日は自室には帰れないなきっと、と小さく息をついた。襲い返してからというもの、兵助の愛情表現は以前よりも過剰になったので。より大胆になった兵助に、俺は部屋に入ったとたんぺったりとくっついて離れなくなるだろう未来を思いながらも、まんざらでもないと思っている自分にただ苦笑した。



(尾浜とのヤツどこまで進んでるのかねえ)(さぁ。でも勘ちゃん狙った獲物は逃がさないから)(だろうな……)(何で俺を見るんだ?)(いや、別に)(そう?)(そう)






















































ときどきあまえんぼうになります





 そういえば兵助に好きだと伝えたっけ。
 布団に仰向けに寝転がり、天井を見つめながらぼうっとしていると、ふとそんなことを思いついた。が装束の袖がほつれてる事に気付いて尾浜の所に行ってくると出て行って、正直暇で。あいつはもう今日は帰ってこない――というか尾浜が返さない――だろうとか、もうじき兵助が明日必要なものを持ってくるだろうなとか、考えていたらふっと思い浮かんだのだ。
 兵助と同じ意味で好きだと、言っていない気がする。兵助にリベンジした時は、好きかもしれないから受け入れてもいいだろうという曖昧な感情のままで、だから言葉にして伝えるのは気が引けて告白の類の言葉など口にはしなかったのだ。忍務ならば簡単に吐ける薄っぺらな愛の言葉も、本気の想いを向けてくる人間に対しては欠片も出て気はしない。
 言わなければ、と思う。兵助の気持ちの上に胡坐をかいて何も言わないのでは、公平ではない。何より兵助に失礼だろう。はじめは確かに無理やりな所もあったが、今はちゃんと兵助を好きなのだから。愛しているとはまだ言えないけれど、好意を伝える事はできる。それくらいには、兵助への恋愛感情はちゃんと育っていた。



 障子を開いて、隙間からちょこんと顔をのぞかせる可愛らしい仕草に思わず笑って、上体を起こす。胡坐をかいて入室の許可を待っている兵助を手招くと、ぱっと花とハートを散らしていそいそと部屋の中へと入ってきた。
 荷物を脇に置いて俺の前に律儀に正座をするお預けを言い渡された子犬のような兵助に、両腕を広げて差し出すと、はにかんだ笑みを浮かべてぽすりと胸の中に入り込んだ。胡坐をかいた膝の上に座って俺の胸に懐く兵助の頭を撫でる。やっぱり可愛いな、こいつ。
 余計に、言ってやらなきゃなぁ、と思った。

「兵助」
「ん、何だ
「好きだぞ」
「え……?」
「好きだぞ、お前と同じ意味で」

 突然の告白に驚いたのか、兵助は大きな目を零れ落ちそうなほどに見開いて、俺を見上げた。好きだと繰り返すと、じわじわと頬を赤くして、瞳が潤む。そこに燭台の火が映りこみ、ゆらゆらと揺れる様が綺麗だと思った。
 ぽろりと、涙がこぼれる。けれども兵助の顔は幸せそうな笑みを満開に咲かせていて。俺の首筋に顔を埋めて、ぎゅっとしがみついてきた。


「おー」
……好きだ、大好き、愛してる」
「……俺も好きだぞ」

 まだ愛してる、とは言えないけれど。
 それでも嬉しいと笑ってくれる兵助が、やっぱり可愛らしくて。
 好きだともう一度呟いて、少し海の味がする唇に、小さく口付けた。



(愛してるっていつか言ってくれるか?)(いつかな。もう少し待ってくれ)(うん、大好き、


 えー、モブ主A(もしくはその一)・久々知の獲物編でした。(獲物?)
 この話の久々知の性格はわからん。書いてても理解不能でした、何この難しい生き物。【艶にて候ふ】シリーズの場合はしっかり設定が出来てるのに……!
 今回の久々知は物凄く書きづらいの何のって……。この後にはモブ主B(もしくはその二)勘ちゃんの獲物編が待っています。この話と所々リンクさせて書いていきたいと思ってます。大丈夫か私……!?
 一人称で頑張る予定なのに気がついたら三人称で書いてたりしますけど、何とか一人称で頑張ります。前半と少し文体が違うのはご容赦ください。では!