性的・暴力的表現注意!




































● 叫び声=スパイス。






「っん、ぅ……ふあ……」

 口腔を舌で蹂躙され、強張った身体にの手が這わされる。長い指が肌の上をすべり行為の強引さとは裏腹に優しく触れてはくるが、その手に情事の艶かしさなどはほとんど見えず、好奇心の色の方が強く出ていた。けれども伊作はそれに気付く余裕は無く、自分の意思に反して煽られていく熱に翻弄されている。
 帯を解かれた着物は縛られた腕から引き抜くことは出来ず、袖が腕に絡まったままで下敷きになってよれていた。最早着物としての役割など果たしてはいない。
 胸やわき腹、足の付け根や太腿の内側に触れていた手は膝を割り開いて無造作に中心に伸ばされ、長い指が伊作自身をからめ取る。とたんにびくりと跳ねた身体に、は唇を離し恐怖に強張る伊作の顔を覗き込む。薄い茶色の瞳に自分の顔が映っているのを確認すると、はにこりと無邪気な笑みを浮かべて見せた。
 怖い、と伊作は思う。生きた伝説と言われている忍は伊作よりも十以上年上のはずだというのに、まるで幼い子供のような顔で笑う。何故、こんな風に笑うことが出来るのだろうか。自分よりも、暗く深い場所を通り、見てきたであろう人間が。
 犯されるであろうと悟ったときとは違う恐怖が伊作の胃の底をひやりとした手で撫で上げ、のその過ぎるほどに無邪気な笑みを見ぬようきつく目を瞑った。
 を拒絶するかのようにきつく目を閉じてしまった伊作に、はむぅっと顔を顰める。感情を豊かに映す薄い色の瞳は綺麗で、間近で見ていたかったのに。伊作自身に絡め愛撫を施していた指に力を入れる。

「っ……!」

 走った痛みに息を詰め、伊作は身体を震わせた。けれども目を開く事は無く、は眉間に皺を寄せて指から力を抜く。つまらない。至極つまらなかった。これならば普通に熱をあおって反応を楽しんでいた方がいいだろう。きっと、そうしている内に目も開く。
 は眇めていた目をくるりと開いて、口元に笑みを浮かべる。皮膚の薄い場所に唇を落としきつく吸って痕を残し、赤い花びらを何枚も散らした。そしてその上を舐める。
 ぴちゃりと水音がして、伊作は羞恥に顔を真っ赤に染めた。ゆるゆると全身に施される愛撫は確実に身体の中でゆらめく熱を上げていっており、既に意識下から離れてしまっている身体は伊作の言う事を聞いてはくれない。じわじわと広がる快感に食いしばっていた歯からは力が抜け、唇からはあえかな喘ぎ声が漏れ始める。

「んっ……ぅ、ぁ……ゃぁ……っ」
「いや?」

 指を絡めた伊作自身にゆるゆると刺激を与え、真っ赤な顔で小さく首を振る伊作を視界に入れて、は楽しそうに口角を吊り上げる。

「ふふふ、そう言われてもやめないけどねー」

 かくかくと首を振る伊作に小さく笑い声を漏らし、先走りで濡れた指を下へと滑らせて菊座に触れ、ぷつりと二本の指先を沈めた。

「ひっ……!」

 途端に伊作の身体は強張り、総毛立った。無遠慮に体内に侵入した指をきつく締め付けてくるそこに、は目を細めた。

「きついね。もしかしなくてもハジメテ?」

 目を見開き唇を震わせている伊作の顔を覗き込んで、鮮やかに感情を映し出す薄い色の瞳は綺麗だと悦に入りながらも、ことりと首を傾げる。その間にも体内に入り込んだ指は伊作の中の何かを暴こうとするかのように蠢いており、その異物感に伊作は喘ぐ事しか出来ない。明らかに物慣れない様子を見せる伊作の姿に、は経験は全く無しと判別して一面に積もった真っ白な雪に足を踏み入れぐちゃぐちゃに蹴散らす時のような快楽を覚えて、きゅうっと機嫌のいい猫のような笑みを浮かべた。
 足をばたつかせて何とか逃げようとする伊作の腰を捕まえ、薄い腹を吸いながら指先で伊作の中を好き勝手に探る。すると腹側の奥の方にふっくらと膨らんだ部分が見つかり、そこを二本の指が押し上げる。

「あぁっ……!」

 びくりと、伊作の身体が跳ね甲高い声が漏れる。はその極端な反応にきょとんと瞬き、あまりにも大きな反応に自分でも驚いたのか目を白黒させている伊作を見上げた。もう一度膨らんだ場所を押し上げると、伊作は高い声を上げ、跳ねた身体をよじらせる。彼が見せる顕著な反応が楽しいのか、はくすくすと笑い声を上げてますます逃げようと足掻く身体に片腕を巻きつけ、その細い身体を抱き込んだ。赤く染まっている耳朶に唇を寄せ、縁を舐め上げて甘く噛み付く。

「んぅ……っ」
「なぁに、感じてるの?」
「やっ…あ、あ……ちがっ……う、んっ!」
「男ってねー、女よりも気持ちよくなれるかもしれない所があるんだって。それがどんなのかは俺も知らないけど」

 気持ちいいんでしょ? 勃ってきてるよ。
 が指を突っ込んで中をかき回しているうちに萎えてしまった中心は力を取り戻してきており、とろとろと濡れていた。伊作もそれは自覚しているのか、赤い顔をますます赤くしてぎゅっと目を瞑り首を横に振る。
 再び閉じられてしまった瞳を残念に思いながらも、は中を探る指を三本に増やしていい反応を返す場所を掠めながらばらばらに動かした。身体の中で好き勝手に暴れるの指に、伊作は悲鳴交じりの嬌声をあげる。

「あっ、やっ…あ、あぁっ……やだっ、やぁっ!」
「イイ声」

 赤く、ぽろぽろと涙のこぼれ始めた頬に口付け、はその声に聞き入るようにうっとりと目を閉じる。そして塩辛くなった頬をぺろりと舐め、とろけはじめたそこから指を抜いた。

「ぁ……」

 苦しいほどの快楽を与え伊作を苛んでいた指が体内から出て行ったことで感じた喪失感に、小さな声が漏れる。乱れる呼吸に胸を弾ませ、焦点の合わない瞳でぼんやりとを見上げる伊作にはにこりと笑いかけ、前をくつろげて取り出した自身を伊作の中へと突き立てた。

「あっ、いっ……!」
「きっつ……」

 指とは比べ物にならない質量に身を裂かれるような痛みを感じ、伊作はそのあまりの激痛に悲鳴も上げられず呼吸をする事すら忘れて呻く。はほぐしてもなお狭い中とがちがちに強張ってしまった身体に、思わず顔を顰めた。これではろくに動けやしない。

「ん……力抜いて」

 耳元で囁かれる言葉に、伊作は小さく首を振る。それがただの拒絶なのではなく、息をするのすら辛い故の事だというのを痛みに青ざめたその顔色から読み取ったは、再び萎えてしまった伊作自身に指を絡めた。それをやわやわと刺激しつつ、胸の飾りを甘噛みし舌先と指でいじる。

「あ、ん…ぅ……」

 しばらくすると、鼻にかかったような甘い声が震える唇からもれる。血の気の引いていた頬は薄らと色づき始め、をきつく締め付けていた中の力も抜けてきて、小さく息を吐き出したは白い肌に花びらのような痕をつけながら、腰を動かした。

「あ、や、いたっ……ん、んっ、ぁ、ゃ、やぁ……」

 痛みと共に這い上がってくる快楽に、伊作は甘くすすり泣きながら首を横に振る。本来性行為に使うはずのない場所に男を受け入れているという現実はもとより、無理矢理犯されているというのに快楽を感じている自分の身体が信じられなかった。信じたくは無かった。たとえそれが、生理的な現象であるのだとしても。

「ゃ、やだ……いやぁ……!」

 突き上げられるたびに走り伊作を絡めとろうとする快楽に、ぼろぼろと流れる涙と共に拒絶の言葉を口にする。けれどもは涙を舌で拭いながらもその言葉には頓着せず、言葉とは裏腹に締め付けてくる温かなそこに機嫌よくうっとりと目を細めていた。
 は寒いのも熱いのも苦しいのも痛いのも大嫌いで、温かいものと気持ちいいものは好きだった。もう十年ほど前になるが盗賊に囚われていた間の経験の為に嫌っている性行為も、突っ込まれないでが好き勝手できるのならば、それほど嫌いではない。人の体温は温かく、気持ちいいからだ。寂しい、寒いと思うようなことがあって、誰も側にいてくれなくても、そうしている間は気も紛れる。
 最も重要で肝心な事はそこなのであるから、が伊作に対して行っていることが自分が盗賊に受けていた行為と同じものであるのだとしても、罪悪感などカケラも無かった。例え誰かにそれを指摘されたとしてもいつものごとくきょとんと首を傾げるだけだろう。一度壊れてしまったの心は、人として大切であろうものが色々と欠けてしまっていた。

「ぅ、あっ、やだ、やっ……やぁあああぁっ!」
「んっ……!」

 いじられる性器と、執拗に前立腺を突き上げられ揺さぶられる身体に、伊作が一際高い嬌声を上げて果てる。同時に小さな呻き声と体内に叩きつけられたの熱に、やっと終わったのかと真っ白に染まった思考で考えた。けれども、多少息を乱しながらも体内に留まり続けるに、伊作はぐったりと下ろした目蓋を押し上げて自分の上に覆いかぶさったままの男を見上げる。
 ふっと息を吐き出したは、ぼんやりと見上げてくる薄い色の瞳に向かって笑みを浮かべた。

「ふふ、きもちい。ね、もーいっかい」

 まるで性行為をしていることなど嘘の様に邪気が無いように見える笑みを浮かべるに、伊作はひくりと咽喉を震わせる。そうしてまた揺さぶられ始めた身体に、伊作はあえかななき声を漏らした。



(どうして、どうしてこの人は)(こんなにも、無邪気な顔で笑いながら)(こんなにも、残酷な仕打ちが出来るのだろう)(まるで、善悪の別もわからない、幼い子供のように)































































































































































● じわりと黒い狂気が滲んでいく。






 一体あの人は自分を監禁したままでどうしようというのだろうか。
 伊作は今は居ないの事を思い浮かべ、眉間に皺を寄せて小さく息をついた。捕まった日以来、伊作の周辺に変化は起こらなかった。後ろ手に縛られていた手は外されはしたが、ぴたりと足にはまった足枷はそのまま。けれども食事や水を与えられないという事も伊作から情報を得る為に拷問するということも――望みもしない性行為はある意味拷問ではあるが――ない。
 ただ、性的にも話し相手という意味でもの相手をする事を強要されていた。その性行為も無理矢理ではあるものの乱暴な扱いはされず、昼夜なくの気が済むまで抱かれている日もあれば、伊作の身体に触れて最後までせずに眠ってしまう日や抱き枕にされるだけの日もある。
 話す内容も様々だ。伊作自身の事を聞きたがったかと思うと、誰でも知っているような御伽噺を強請る事もある。かと思えば大量の着物――その殆どが女物だ――を持ち込み、伊作をまるで着せ替え人形のように扱う事もあった。今伊作が着ているものも、至極肌触りのいい上等な木綿の着物だ。女物ではあるが、柔らかな色合いに上品な柄で、持っているだけでセンスがうかがい知れるような代物である。そんなものを伊作に着せるというところが良く解らないが、オモチャとしては気に入られているのだろうという事だけははっきりしていた。
 今の所、殺されることはないのだろう。けれども、何時その気が変わるとも知れず、そんな状況で安堵などできるはずもなかった。

「ん〜しょっと」

 するりと天井からが降りてくる。身のこなしに隙はなく、まるで重力など感じていないように軽い。それだけ柔軟で強靭な筋肉が付いているのだという事と、生きながらにして伝説と謳われる実力の持ち主である事を毎度のように理解させられ、あまりの脱出の困難さに、伊作は心に影が差すのを感じる。解っていたことではあるが、改めて知ると気分が塞いだ。
 逃げられないだろう事は解っている。と伊作自身との実力の差に、全てがカラクリで作り上げられているようなこの部屋。不運な伊作が、もし足枷を外すことが出来たとして、カラクリの一つも動かさずにこの部屋から出ることなどできるはずも無い。脱出しようとせずとも時折室内に有るカラクリに引っかかって、天井から部屋に入ってくるに笑われているのだ。

「暗い顔〜」

 するりと、若干硬くとも綺麗な指先が頬を撫でる。そのまま下に滑り降りた指先は顎を持ち上げ、形のいい唇がちぅっと伊作の唇を吸った。間近に迫った綺麗な顔に、伊作は息を詰める。そうして、一度唇を舐めて離れていったに、ほっと胸を撫で下ろした。
 その様子を面白く無さそうに見て、は伊作の膝を枕にして寝そべる。腰に腕を巻きつけて、腹に額をぐりぐりと擦りつけた。伊作は小さな子供が甘えるような仕草に戸惑いながらも、頭を撫でろと要求してくるの髪をそろそろと梳く。

「ん……」

 気持ち良さそうに目を細め、腕にこもる力に、なんだか胸の奥がきゅうっとなった。

「あ、の……」
「ぅん? なぁに?」

 とろりとした焦点の合わない闇色の瞳が、ぼんやりと伊作を見上げる。

「貴方は、僕を閉じ込めて、何がしたいんですか?」
「遊んでって言ってるでしょ」

 むっとした顔をして伸び上がり、己の唇で伊作のそれを塞ぐとそのまま押し倒す。深く重ねられねじりこまれた舌は縮こまっていた舌を絡め取り、ぴちゃりと水音を立てた。抵抗してはみるもののあっさりとねじ伏せられ、帯を解く衣擦れの音が伊作の耳に響く。

「っん、ぅ、ゃ……!」
「そーお? でも拒否権なんてないの知ってるでしょ」

 頬を伝った唾液を追うように唇が這い、首筋を吸って鎖骨に落ち窪みを舐めて浮き出た骨に歯を立てる。捕えられてから数日の間に好き勝手に開発されている身体はその刺激に快楽を覚えて震え、伊作は目に涙を浮かべた。
 その雫を吸い取りながら、は裾を割って太腿の内側を撫でていた手で下帯を落とし、無造作に菊座へと指を突っ込んだ。前戯も無く侵入してきた指に、伊作の身体が硬直する。けれども昨夜遅くまで男を受け入れていたそこは未だに柔らかく、容易く指を受け入れてしまった。

「あ、ぁ……」
「ぐずぐず」

 くすくすと、小さな笑い声が伊作の耳元で響く。己の意志に反して受け入れることを覚えてしまっている身体に、なんだかとても情けない気持ちになって、伊作はひくりと咽喉を鳴らした。柔らかな内壁をそろそろと探っていた指先がするりと抜かれ、代わりに突き立てられた熱に、伊作は悲鳴と嬌声が入り混じった声を上げる。

「はぁ……」

 至極満足そうな溜息が耳を掠める。一番最初感じていた痛みはすぐに消えて、充足感のようなものが身の内を満たす。抵抗する為に肩口に置いていた手はいつの間にか背に回されて、縋るように着物を握りこんでいた。犯されている相手に縋るなんて、と泣きたいような気持ちで思考するものの、突き上げられ揺さぶられると、瞬時にそんな思考は飛んでいってしまう。

「ひゃ、ぁ、ぁ……っ!」

 ぐいっと引っ張られる布地に、は目を細めて涙の伝う頬に口付ける。そうして唇を塞ぎ、暖かな口内を舐めた。

「んっ、んっ、んぅ……あっ……!」
「……そういえばさー」

 ふと思いついたことに律動を止め、顔を真っ赤にして荒い息をついている伊作の顔を覗き込む。その拍子に中を抉る角度が変わり、びくりと細い体が震えた。

「この前……んー、半年くらい前だったかなぁ。ドクタケとどっかの城の戦場の近くに居たでしょ」
「せ…ん、じょう……?」
「そー。ヤエザキに近い場所。怪我した足軽を手当てしてたね」

 熱を持つ意識の中で、の言葉をなんとか理解しようと視線を彷徨わせ、思い当たった出来事にこくりと頷く。

「見て……?」
「うん。どちらにも関係の無さそうな、未熟な忍の子供が変な行動してたから目に付いたの。だからすぐわかったよ、君があの時の子だって」

 ああ、だから女装して潜入していることがあんなにも早くばれたのか。
 あまりにも早すぎる発見に腑に落ちないものを感じていた伊作は、思わぬところから答を知って、己の不運さを嘆いた。出来るのならば、あの時の自分を叱り飛ばしたい。足軽の手当てなんかせずにさっさと引き上げなければ、美しい鬼に捕まってしまうのだと。けれども、叱り飛ばした所で自分が取る行動が変わりはしないだろう事を、伊作はしっかりと自覚していた。保健委員としての習性は、しっかりと魂に染み付いているのである。

「あの時からずーっと不思議だったんだけど、どうして君は何の関係も無い他人に貴重な医療道具を使うの?」
「そ、れは……怪我をしている人を、放っておけないからで……」
「なんで放っておけないの? 他人だよ。自分には何の関係もない相手。しかも治療したって戦場は近くにあるし、動けるようになったらまた戦場に向かって、今度こそ死ぬかもしれないじゃない。そんなの治そうとするだけ無駄でしょ?」
「それでも、その時はまだ、生きているんです。応急手当だけでもしておけば、生きて帰る事だってできるかもしれない」
「手当てした後にそいつが襲い掛かってきても?」
「はい」
「手当てした相手が忍務対象で、最終的に殺さなきゃいけない相手でも?」
「対象だと、その時に、判っていなければ」
「こんな事をしてくる相手でも?」
「……怪我をしていれば治します」

 怪我人がいれば治療行為に走るという伊作に、はついっと目を細めた。
 その感覚が良くわからない。全く関係の無い人間がどこでどう死のうがには何の問題もないし、手当てした所で結局は死ぬのだったら、その治療も全くの徒労に終わるというのに。特に自分の手で殺さねばならないのだとしたら、余計に。
 それが判っていて、彼はそうするのだという。
 本当に、全くわからなかった。知っているような、気もするけれど。

「わからないな……。忍者に向いてないね、君」
「よく、言われます」

 理解の出来ない生き物だと結論を下し、再び律動を開始する。ぴくりと身体を震わせ甘い声を上げ始めた子供に、は腹の底で何かがどろりと蠢いたのを感じた。



(この子供は変わらない)(あまつさえ、強姦した相手でも怪我をすれば治そうとするだと?)(わからない、わからない、わからない)(どうすればこの子供は壊れるのだろう)




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