ケモノが哂う





 かたりと背後で音がした。
 気配はしない。けれども殺気に似た空気だけは恐ろしいほどに感じられて、仙蔵は息を詰めて振り返った。

……」

 声が震える。ばくばくと心臓が高鳴る。この音が聞こえてしまうのではないかと思うほど、大きな音で。そんな仙蔵の様子に、はニィッと、まるで飢えた獣のような笑みを浮かべた。唇の端から淫猥な気配が零れ落ちる。
 ふらりと、の肩が揺れる。仙蔵はひゅっと息を呑み慌てて逃げ出そうと思ったところで、既に肩が畳に押し付けられていた。咽喉を押さえつけられ、ぐっと息を詰める。眉間に皺を寄せると、首筋で纏められたの髪がぱらぱらと仙蔵の寝間着の上に落ちた。

「逃がすと、思うか」

 欲情にかすれた声が、耳に直接媚薬のように送り込まれる。ぞくりとした背中に身をよじれば、耳朶を噛まれ舐めあげられた。仙蔵は低く呻き、との体の間に手を入れて何とか隙間を作る。けれども、引き剥がすには力が足りなかった。

「やめろ……!」
「断る。文次郎は今日は帰ってこない、だろう?」

 何故知っている。
 咽喉を圧迫されたままで苦しい息の下で、仙蔵は気丈にもを睨み上げた。潤みを増したその瞳に、はギラギラと輝く目を細め、口角を吊り上げた。

「あいつに割り振られた忍務、元は俺に渡されるはずのものでな。だが俺は今こんな有様だろう? 学園長が今外に出してはいけないと判断なさったらしい」

 くつくつと、咽喉で笑い、肩に添えられた仙蔵の指をからめとって噛み付くように口付けた。性急に入り込み、荒々しく口腔を荒らす熱い舌に、仙蔵は背を震わせてきつく目を瞑った。
 離れた唇が銀色の線をひき、口内を荒らしていた舌が仙蔵の薄い唇を舐める。

「もう抵抗しないのか」
「した所で、やめる気は無いのだろう」
「無い」

 咽喉を圧迫していた手が離れ、代わりに唇が落とされる。手は帯を解きにかかり、鎖骨の形を唇で辿り、窪みを舐めあげ、割り開いた襟元からさらりとした白い肌を探った。はっと熱を帯びた吐息が唇からもれ、じわじわと背筋を這い登る快楽に顔を顰める。
 所々で肌に歯を立てるに、仙蔵は唇を噛み締めた。

「声を出せ」
「……っだ、れが……ぁ!」

 足の間に伸ばされた手が下穿きを剥ぎ取り、直接触れてきた指に小さく声が上がり、はくつりと咽喉を鳴らした。直接的な快楽に跳ね上がる足に、そらされる背。身をよじり、逃げようとするかのような反応に、は浮いた背に腕を回し鳩尾の上をきつく吸い上げた。

「……ぅ、やぁ……!」
「嫌? 気持ちいいの間違いだろう?」
「…っの!」

 潤んだ瞳で睨みつける仙蔵も何処吹く風で、は笑い声を上げ続け、汗ばんできた肌に顔を埋めた。






「ん……」

 痛む咽喉と体の奥に呻き声を上げ、仙蔵は重い目蓋を押し開いた。身体自体も重い。けれども酷く汗ばんでいたはずの肌はさらりと乾いており、身体の一部分が痛むだけで特に体調が悪いということもなかった。どうやら後始末はしっかりとしてくれたらしい。
 身体は柔らかな布団の上に寝かせられており、額や髪には乾いた指先が当る感触がした。さらりと、顔にかかる髪を長い指がかきあげ撫で下ろす。手酷く抱きながらも、のこういう仕草はとても優しく、慈しみさえ篭っているように思える。
 抱かれるのはあまり好きではない。孕めるわけも無い腹に種を注がれた所で空しいだけだ。その行為に欲望の処理以上の意味などない。けれども、触れ合った後にこうして髪をすく、ただ優しいだけの指先は好きだった。とろとろと、意識が溶け出す。落ちてくる目蓋に素直に従い目を閉じて、ほうっと息をついた。
 次に目が覚めたときにはもう、この男はいないのだろうと、今までに迎えた朝を思いながら。



 がふん……! あきづきはちからつきた へんじがない ただのしかばねのようだ。
 すいませんエロは無理ですこれ以上は書けません艶主でそこまではっちゃけられない……!

 本当は後始末もしないで去って仙ちゃんが文句を言う予定でしたが、流石にそれはちょっと仙ちゃんが可哀想すぎるのでやめました。でも基本艶主は朝まで一緒にいることは無いです。夜中ある程度同じ空間で過ごしたらすっきりさっぱり傍を離れていきます。
 逆に兵助は朝までがっちりホールドして離さなかったり。