それでオワリ



 心なしか、穏やかな顔になったような気がする。
 窓から垣間見たの姿に、仙蔵はそう思った。何があったか、など、考えずとも知っていた。久々知と恋仲になったのだと、小平太が言っていた。聞いてもいないのに知らせてきたのは、おそらく牽制なのだろう。そうなった以上、手出し無用という。そんな事をせずとも、おのずと知れたときに仙蔵はただその時がきたのだと己を納得させて終わりだというのに。
 いや、小平太は仙蔵がそうやって気持ちを終らせる事すらも知っていてなお、言葉を重ねてきたのだろう。昔から小平太は、を守ることには一切の手を抜かず、普段の頭の悪さはどこへ行ったと聞きたいほどの頭の回転の速さを見せる。誰が傷ついても、誰を傷つけても、の全てを優先するのだ。そういう身分で、そういう関係なのだと、六年連中は何を言われずとも気付いていた。
 だから仙蔵は平素と変わらぬ調子で、ただ「そうか」と一言でその話題を終らせた。そんな仙蔵に、小平太はただ笑みを浮かべただけだった。
 仙蔵との間にあったのは、鬱憤を発散するという目的での体の関係だけだった。だから、彼が誰と恋仲になろうがどうしようが、仙蔵には関係のないことだ。ただ、もう触れ合うことが無いというだけの話。関係持つ前の状態に戻るだけなのだ。それだけなのだ。
 胸に走った痛みも、泣きたくなる心も、という男を愛した事も。
 全て無いものとして認めずに。
 認められずに。

-------------------------------------------------------------------------

 最後まで素直になれなかった仙蔵。