性的・暴力的表現注意!



5 だから違うって





 何かがおかしいと、は気付いていた。他の誰が気付かなくても、だけは気づいていた。いや、だけしか、気付けなかった。問題は、の内側にあったのだから。けれども、何がおかしいのかは彼にもわからなかった。彼はあの戦場で、己の心の動きを把握する事を、敵と共に切り捨ててしまったから。
 けれども、少しずつ、自身の自覚のないまま膿んだまま放っておかれた傷を癒され、彼の心は徐々に正常な機能を取り戻し始めていた。



 きろりと、月の光を鈍く反射した刃が光る。それを見た瞬間に背筋に走るのは、ぞわぞわとした気持ちの悪い感覚。寒いのとは、少し違うそれ。そして胃の奥がギュッと縮まるような、頭から血の気が引くような感覚。
 それに戸惑いながらも、は自分に向けられたクナイを紙一重で避け、手に持った刃を間の前に迫った身体に突き立て、引き裂いた。手に伝わるのは、肉を、細胞を引きちぎる感触、重さ。鼻先に広がるのは鉄のような臭い。頬に、手に、胸に腹に足に飛び散る、赤い、あかい……。

「血……」

 月の下では黒く見えるまだ温かいそれに濡れた手を見下ろして、小さく呟いた。かたかたと、指先が震えている。いや、全身が震えていた。止めようとしても、その震えは止まらない。
 何故。
 そう思いながらも、手に向けた視線を外すことは出来ず、喉の奥が引き攣り体温が下がっていく。

「ぁ……」

 体中が強張っている。けれども、腹の底から込みあがってくる衝動に、叫びだしそうだった。
 しかし、頭上から僅かに指した影がそれを許さず、はほぼ反射で向けられた刃先をバックステップでかわし、手裏剣を飛ばすのと同時に懐に踏み込み、先ほどの血で充分に濡れた忍刀で違わず心臓を貫いた。骨の合間をぬって、皮膚を、肉を、臓器、を。
 即死し倒れ掛かってくる身体を蹴り倒して、忍刀を抜く。二人分の血を吸って黒々と染まっていく草と土を見下ろして、は大して疲れたわけでもないのに呼吸を乱し、大きく肩を動かしていた。掌から力が抜けて、血と肉と油に塗れた刀が落ちる。視線の先には黒く染まった大地、そしてその大地の上に物言わぬ骸と成り果てた他国の間者。全身の震えは、まだ止まらず、さらに酷くなる。
 は、この感覚を知っていた。それは、あの戦場に置き忘れたはずの、あの戦場で切り捨てたはずの、純然たる。

「ぁ、ぁぁぁ……っ」

 恐怖。

「――――――っ!!!!!」

 声にならない悲鳴を上げて、身の内を満たした恐れにきつく身体を抱え込む。
 怖かった。怖くて怖くて堪らなかった。血が。人を切り裂く感触が。死が。それでも叫びださなかったのは、引き攣った咽喉が声帯を震わせることを拒否した為だ。それほどまでに恐怖を抱いた証だった。
 違う、いけない、とは思う。何が違うのか、いけないのかを理解しないままに、違う、いけないと思う。かたかたと、震える身体をそのままに、回した腕を無理矢理に解いて強張る背を伸ばし、首を軋ませながら上を向いた。
 背後に、知った気配が降り立つ。

「組頭!」
「状況は?」

 切迫した声に、口が勝手に言葉をつむぎ出した。不思議と、声は震えていない。体の震えも、いつの間にか治まっているようだった。

「侵入者は二十一、うち十六までは片付けました。こちらに死傷者は出ていません」
「そう……ここので十八。残りの三は突破したか」
「は……申し訳ありません」
「いーよ。中には悠一郎も九郎さんもいるしね。任せておけば、だいじょーぶ。若君の所に辿りつく前に、城にも入れないよ」
「はい。遺体はどうなされますか?」
「獣の餌場にでも放っておけば、勝手に綺麗にしてくれるよ。あぁ、人が通りそうな場所に血痕が残ってたら、それは処理しといて。血の臭いに引き寄せられて獣が出たら困るから」
「御意」

 気配が遠ざかっていくのと同時に、矢羽音が幾度も飛ばされる。先ほどのの指示を、山の中に散らばっている仲間に飛ばしているのだろう。了承を知らせる矢羽音が、の耳にも入る。それにほっと息を吐き出して、は驚愕に目を見開いた。安堵している。部下に、犠牲者が一人も出ていないことに。そして、国の要たる若君の無事を確かに信じられると言うことに。
 その時初めて、は自分が、自らの意志でもってヤエザキと言う国と城を守ろうとしているという事実に、気がついた。大切なものだと、そう、認識している事に。

「ここ、が、たいせつ……?」

 自分を、こんな怖い事に縛り付けるものでしかない存在が。生きる為の手段でしかない、ヤエザキが。

「ぇ、おれ……ぁ、ぅ、でも……だって……まもら、なきゃ……」

 何を。
 国を。
 誰を。
 若君を、悠一郎を、三郎を、民を。
 どうして?

「や、だ……やだ……ぁ、こ、わ……こわ、いぃ………や…………!」

 かたかたと、見下ろした手が再び震えだす。黒く塗りつぶされた手。所々乾いて、ぱりぱりになってきていた。まだ濡れている場所に当たる夜風が冷たい。痛いほどに冷たくなった耳を庇うように、黒くなった手を押し当てる。

「ぁ、で、も……お、れの…くに……」

 守らなければ。
 大切な国。
 大切な人たちが住む、大事な場所を。
 それでも怖かった。怖くて怖くて怖くて怖くて怖くて、怖くて。
 丸みを取り戻し始めた柔らかな心に鉤爪が立てられ、引き裂かれる。そして理解した。こんなのは違う。これは詠野の心ではない。こんなのはいけないのと思う。こんな柔らかいだけの心では守りたいものも守れず押しつぶされてしまう。
 そう、守りたい。守りたいのだ。今この瞬間に理解した、その想い。十年以上もかけて育て上げてきたヤエザキへと注ぐ愛情が向けるベクトル。詠野でなければ押しつぶされてしまうその重み。

「ぁ、ぁぁぁぁぁぁ…………!!」

 どうして、何故、気付いてしまったのか。今になって、何故こんなにも恐怖を覚えている。押しつぶされる、押しつぶされる、押しつぶされる。守らなければという、半ば強迫観念のように染み付いた愛情と、まるで忘れていた年数の分だけ、一気にわきあがってくるような恐怖に。
 押しつぶされて、しまう。
 涙が溢れた。

「たすけ……ゆー………!」

 今は側にはいない、自分を守ってくれる人に手を伸ばして、そして。
 ブラックアウト。



……?)(小頭、どうかしましたか?)(……組頭を迎えに行く。ここは片しとけ)(はい。お気をつけて)











































































































6 もう少し





 ゆらゆらと、不安定に揺れながら意識は上っていく。嫌だ、とその瞬間に思いはしたが、一度登り始めた意識はの意思に反して上昇する事をやめはしない。もう一度嫌だ、と胸中で呟き、抵抗しようと足掻くと眉間に皺がより咽喉からうめき声に近い声が漏れた。

?」

 密やかに、気遣いを含んだ声がの名を呼ぶ。声の主を探すように、重くて動かしにくい身体に苛立ちながらも手を彷徨わせると、武器を握り続けて硬くなった大きな掌が優しくの手を握った。よりも幾分か高い体温に、ほっと安堵の息を吐いて体の力を抜き、覚醒への抵抗をやめて目蓋を押し上げた。

「ゆー…いち、ろ……」
「ああ。大丈夫か?」
「か、らだ……おも……」
「少し、熱が出てるんだ。待ってろ、今癒羅を呼んで……」
「ぃやだ!」

 大きな声を出し、布団を跳ね上げて立ち上がろうとした悠一郎に縋りつくようにして手を伸ばしたに、悠一郎は驚きに目を見開いて座りなおした。捲れあがった布団の上にを戻そうとしても幼い子供のようにむずがるので、いつものように胡坐をかいた上に座らせ、抱きかかえてやる。
 まさか、片時も癒羅を側から離さないが、その存在を拒否するとは思いもしなかった。まさか鼠の駆除の間に何かあったのだろうか。最後にの元に報告に行った忍の話では、その様子はいつもと変わりなかったらしいが。

「ゃだ、やだ……!」
「わかった、呼ばないから……。、倒れるまでの事、覚えてるか?」

 何があった。そう聞く悠一郎に、は彼の襟元を握りこみ、肩に額を擦りつけた。甘えるようなその様子に、話すのを嫌がっている、と言うよりも、何かに脅えているようなそんな気がした。その事を流しかけて、ちょっと待てと息を呑む。脅えるだなんてそんな感情は、ここ何年もずっと見ていないものだった。そう、あの、が空ろに壊れてしまう原因になった、戦場から。
 間違えてはいけない。ここで対応を間違えてしまえば、は崩壊を迎えてしまうだろう。あっけなく脆く。当然の如く、簡単に。こくりと、緊張を覚悟に変えて飲み下す。

「何が怖いんだ、

 柔らかく優しい声が降り、大きな手が髪と背を撫でる。じわりと、何かが決壊したようにの目元に涙が滲んだ。

「やだ……」
「ん?」
「おれが、おれで、なくなる……ゃだ……みんな、まもれな……!」

 ひくりと咽喉が鳴り、ぽろぽろと涙が零れ落ちる。
 悠一郎はそれに驚き、懐古の念のようなものを覚えた。昔、と名づけられたばかりの少年は、彼の傷だらけの身体を見てこんな風に涙を流した。その時は傷あとを見て驚いたからなのだと思っていたのだが、その傷に忍のありようを見透かして脅えていたからなのだと、今更のように気付く。
 そして今、この綺麗な綺麗な涙を流すは、自己の崩壊によって大切なものが守れなくなることに脅えていた。あぁ、と、悠一郎は嘆息する。場違いにも、感動して泣きたくなってしまった。空ろで、ただ義務のように、暇つぶしのように忍の仕事をこなしていたが、己を縛り付ける鎖を大切なものだと認識し、夜叉王に与えられた力をそれを守るための手段だと思っている。
 のずたずたに引き裂かれた心が、徐々に癒えてきている証拠なのだろう。彼の心が癒されるのは嬉しい。けれども、その変化こそが、を崩壊させる原因として彼を苛んでいる。
 いい変化だと思っていた。穏やかな心を表情に反映させられるそれを、とてもいいものだと思っていた。実際に、彼は癒され、初めて会った頃の柔らかな心を取り戻し始めていた。けれども、それは同時にを傷つける諸刃の刃だったのだ。とても柔らかな、柔らかすぎる心を持ったまま“詠野”でいられるほど、彼は強くはない。悠一郎は愚かにも、その事実に今気付いた。彼の崩壊と忍たる“詠野”の誕生に立会い、誰よりもよく彼の過ぎるほどの柔らかさと脆さを知っていた筈だと言うのに。
 だから、彼は片時も側から離さなかった癒羅を、伊作を、拒絶したのだ。自分の心を癒し、“詠野”を消していく存在を。
 どちらがいいのだろうか。このまま癒羅を側に置き、傷を癒してあの戦場で押しつぶされてしまった優しすぎる少年の心を取り戻すのと、癒羅を引き離し、彼を“詠野”のままでいさせるのと。けれど、こんな悩みは戯言でしかない。答は一つだ。が癒羅を拒絶して泣いている。そして、“詠野”がいなくなることは、情勢上あってはならないことだった。彼の名は、存在は、そこにあるというだけで周辺国への抑止力となっているのだから。

「ゆら、すき……さなんさんみたい…………」
「そうか。優しい人だったんだな」
「ん……ゆら、みてると、おもいだす。やくそうの、かおり……よくわらって、て、ゆら、さなんさん、にてる……っ」
「一緒にいたいか?」
「いたい……でも、や……っ、おれ、ゆ、いちろも、さぶろも、みんな、すき……やえざき、まもりた……っ!」
……」
「な、まえ…よんで……も、と……!」

 自分が何者か、忘れないように。刻み付けるように。明かすように。

、詠野
「ん……」

 求められるままに、何度も何度も、の名を呼ぶ。
 そしてだんだんと落ち着いていく嗚咽と背中の震えがあまりにも痛ましくて、悠一郎は見ていられなかった。一瞬、きつく閉じた目蓋の向こう側は真っ暗で、泣きたいほどに、真っ暗で。


「うん……」

 やんわりと浮かべられた笑みは、埋められた空洞の分だけ、切なく、美しかった。



(癒羅を手放す事がの望み)(彼が彼であるために必要な事)(それでも、あの子供と共に在る時の穏やかな顔が)(何よりも、愛しい)










































































































7 気付かない君





「本当に、よろしいのですか?」
「うん。ごめんね、お願い」

 どこか愁いを帯びた、影の指した表情に、つられるように気分が塞いでしまい、幻羅は口をへの字に曲げて肩を落とす。けれども、謝られた上に頼みにされてしまっては否と言うわけにもいかず、是と首を縦に振るしかなった。
 ふらりと、幻羅の前から去っていくの背中は、どことなく細く小さく見える。昨日までは、とても穏やかな顔をして、幸せそうな雰囲気を纏っていたというのに。
 本当にいいのだろうか。このまま、の望みどおり、癒羅の意志を封印して伊作の意識を引き上げ、その上で記憶を改竄して忍術学園に帰してしまっても。の幸せそうな顔を、このまま見れなくなってしまっても。

「良いわけ、ないじゃないですか」

 小さな拳を震わせ、幻羅は奥歯を噛み締めて顔を上げる。消えてしまったの背中を睨みつけるようにして瞳に力を込め、くるりと踵を返した。小頭に、九郎先生に、そして、三郎兄さんに知らせなくては。の幸せを何よりも願っている人たちを、幻羅は確かに信じていた。



 三郎も九郎も、幻羅の言葉には渋い顔をしていた。今まで側から離さずべったりとくっついていたと言うのに、急に手放すと言うのだから全く訳がわからない。あまりにも急激に変わりすぎている。けれども、厭きたから、というの身勝手な言葉を鵜呑みにするには、彼の行動や態度が伴われてはいなかった。

「そんな、兄様、どうして急に……」
「……悠一郎、お前何か知ってるだろう」

 視線を彷徨わせ、珍しくもあからさまに狼狽する三郎を横目に、九郎は一人静謐な表情で視線を落としていた悠一郎へと視線を向ける。の最も近いところに有り、昨夜も遅くまでに付きっ切りだったのは、この男だ。動揺も何もせず、むしろ当然のような顔をしている悠一郎は、に何事かが起こり自ら安らぎを手放そうとしているのかを、知っているに違いなかった。
 視線が集まる中、悠一郎は徐に口を開いた。

「昨日、が泣いた」
「なに……?」
「兄様が?」

 驚きに目を見張る二人と、言葉もない幻羅に、彼はコクリと一つ首肯する。

「このまま癒羅を側に置き続ければ、“詠野”でいることが出来なくなると」
「……そういう事か」
「もっと、考慮してしかるべきでした」
「自分を責めるなよ、悠一郎。こんなことになるなんて、誰が思いつく」
「それでも俺たちは、アレの根っこの部分を少なからず知っていたはずです。安易に、求めてはいけないものだと、知っていたはずなのに」
「言うな。……ぁあっ、くそ! ほんっと、恨むぞ夜叉王!」

 悪態を吐きながら、九郎が頭巾と元結を剥ぎ取るようにがしがしと頭をかき回す。
 困惑を露にする子供たちを置き去りに、の現状を把握した大人たちは深々と溜息をついた。彼らが何の事を言っているのか、彼らにはわからない。ただ、は心理的にまずい状態にあり、それに名前と功績でしかしらない先代の組頭が関わっている事だけは会話から汲み取れた。

「あの……それで、僕はどうしたら……」

 おずおずと、それでもの依頼をどうすればいいのかと問う幻羅に、九郎は眉間に皺を寄せ、判断を下すには自分ではから遠いと首を振り、唯一、彼が縋った男を見た。悠一郎は静かな表情を浮かべたまま、深慮に揺れる瞳を小さな幻術使いへと向けた。

の望みどおり、癒羅――善法寺伊作は学園に帰す」
「そんな……!」
「悠一郎さん!」

 子供二人の口から、悲鳴じみた声が上がる。けれども悠一郎は揺れる事無く、ひたと彼らを見つめた。

「だが伊作にかける暗示に手を加えてもらいたい」

 そうして紡ぎだされた言葉に、三郎は大きく目を見張り、幻羅は表情を引き締め食い入るように悠一郎の口元を見つめる。細かく条件付けられた暗示の内容を脳裏に刻み付けた幻羅は、絶対に成功させるという気合と覚悟を握り締め、しっかりと頷いた。

「やってみせます。必ず」
「そしてその後は私の腕の見せ所、というわけだ」

 三郎は不敵な笑みを見せる。その奥には若干の緊張が混じってはいたが、集中を保つのに丁度いい硬さを持っていた。悠一郎はそれに頷き、表情を苦笑の形に緩める。

「……あんな顔を見せられて、諦めきれるか」
「だな」
「はい」
「……それでは、行ってきます」

 こくりと頷いて、幻羅は決意と共に立ち上がる。きっとできると、そう信じてくれる視線が、とても心強く思えた。






 瞳から光を無くした癒羅――伊作の体が崩れ落ちる。それをそっと支えて抱き込み、はそっと視線を落とした。その表情は暗く沈んでいる。見ているほうが痛くなる顔に幻羅は切なく目を細め、小さく頭を下げて部屋の中から出て行った。
 殺しきれていない足音が遠ざかっていく音を聞くともなしに聞きながら、は伊作の頬にそっと手を添え、親指で優しく撫でる。

「ごめんね、傷つけてばかりで」

 吐息交じりの謝罪が、痛いほどの沈黙が横たわる空間に響いた。

「俺は勝手で、最低だ」

 伊作を見つめる目は変わらず、ぽっかりとした深淵が覗いている。けれどもかすかに、優しい光が、そこにはあった。

「でも、俺には、“詠野”が必要だから」

 柔らかな髪に鼻先を埋めると、染み付いた薬草の香が胸にしみてほろりと一筋、涙が零れ落ちた。
 少しだけ濡れた頬に、まだ成長しきっていない、それでも武器を握る事を知って硬くなった指先が触れた。はっと息を呑んで伊作の顔を覗き込むと、薄い色の瞳が目蓋から覗き、揺らめいている。唇がもの言いたげに震えていた。けれども言葉を紡ぐ事無く、彼は目を閉じ、の涙を拭っていた指先はぱたりと落ちる。目蓋を下ろした拍子に流れた涙が、こめかみへと伝った。

「いさく……それともゆら……? ……どっちでも、いいか」

 今、この時だけ、“詠野”であることを忘れる事を自らに許した男は、柔らかくその体を抱きこんで、濡れたこめかみへと唇を寄せた。
 


(ごめんね)(辛い事は何にも思い出さないようにしてあるから)(それでも、もし)(万が一にでも思い出したら)(俺を殺しにきて)(思い出さなくても、君になら殺されてあげる)(だから、それまでは)(さよなら)







 はい、中編でございました。ほぼ半分はオリキャラ達の視点で、彼らを取り巻く現状やら心情やらで構成です。
 何かもう主人公が人非人ですいません。でもここまで伊作の意思を無視しての行動だといっそ清々し……くはない、ですよ、ねー。ヤエザキは至上主義の巣窟なので意図的にやってます。重ねて伊作ファンの皆様、すみません。
 そしての精神面。ちょっとまともな心の動きを取り戻してきておりますが、全力で本人が拒否ってます。忍であることに耐え切れないからまともな所がぶっ壊れたんですから、当たり前と言えば当たり前な反応ですが、予測していた方いらっしゃいますでしょうか、わくわく。

 さてさて、残りは後編でくっつくだけなのではございますが、だけ、と言ってしまうには困難なこの状況。作中で言っている通り、全ては三郎の努力にかかっています。丸投げですのことよ、ええ。書くのは秋月ですけどね!
 そんな訳で、後編は忍術学園での話になります。なので、基本的にヤエザキの連中は出てきません。勿論の事、前半はすらも出てきません。……本当に後編だけで終わるのか心配になってきた。えー、大丈夫か私。
 っつーことで、後編も頑張りまっす☆