ある日の任務帰り。
大量に入れられた任務の為に、気づけばもうすっかり朝で。
下忍の任務の集合時間になっていた。
仕方が無いから影分身に行かせたんだけど……。
ちょっと何あれ!?
あいつら本当に上忍なのっ!?
「主、主主主主あーるーじーーーーー!!!」
すぱーんと、音高らかに障子を開ける。
らしくもなくどたばたと足音を響かせながら走ってきて、荒い息をついているのはサクラだった。
小さく息をついて、シカマルは巻物から顔を上げる。
「何だよ、サクラ」
「何だよって、それは私の台詞です! 何なんですかあいつらは!?」
「あいつらって?」
「あいつらです! 変態と熊と新米!」
信じられないっ!と叫ぶ。
その声がきーんと響き、シカマルは耳が痛い…と溜め息をついた。
「サクラ煩い」
呆れた視線を向ける。
するとまさに青菜に塩。
苛烈な怒りを露にしていたサクラは、急にしゅんと肩を落として落ち込んだ。
シカマルはそれにまた溜め息をついて、頬杖をついた。
「で、奴らがどうしたって?」
「…気づかなかったんです。周囲が敵の忍に囲まれているのに」
シカマルの方眉がぴくりと上がり、僅かな振動に長い髪が背中を流れ前に落ちる。
それに少し見とれながらも、サクラは言葉を続けた。
「敵の数はそれほど多くありませんでしたし、確かにそれなりに力はありました。でも、はたけカカシや猿飛アスマならば気づけたはずのレベルです。それなのにやつらはシカマル様の影分身やナルトにちょっかいかけるのに夢中になって……。私がいなければ確実に殺られていました」
「……なるほど。それであの台詞」
「はい」
拗ねたように唇を尖らせ、真っ直ぐに己の主を見つめる瞳にはありありと不満と不安が表れている。
シカマルはサクラから視線を僅かに逸らし、彼女の後ろにある空を眺めた。
真っ白な雲が、真っ青で限りなく透明な空をゆったりと流れている。
気候も穏やかで、悪条件など欠片も無い。
だと言うのに、周りが囲まれているのに気づかなかったという上忍。
確実に忍の質が落ちている。
遠いところを見詰めながら、つらつらとそんな思考をめぐらすシカマル。
許可もされていないので部屋には入らず廊下に座ったままで、サクラは何やらつらつらと考えているらしき主を見詰めていた。
必要も無いのでいつもの変化をといてる姿は、昔から見ているにもかかわらず綺麗だと思う。
ナルトに言われて伸ばしている髪は腰まであり、あまり手入れをしていないというのに美しく。
天使の輪ができるのなんて当たり前で、初めて見た時はこれが烏の濡れ羽色と言うのだと思った。
そしてあまり昼間に活動しないためか、肌は白く、まるで真珠のようである。
瞳は髪の色と同じく漆黒で、まるで夜を凝縮したように深い。
今はあらぬ場所を見ているためか焦点が合っていないが、それが余計に深みを感じさせる。
(あの影分身の本体がこの方だなんて、知らない人間には信じられないでしょうね)
しみじみと心の中で呟く。
気づかれぬように小さく溜め息をつくと同時に、シカマルの瞳に鋭い光が一瞬宿り薄れていった。
焦点が合っているところから見て、やっと戻ってきたらしい。
「要修行だ。お灸、すえなきゃな」
ぼそりと呟く。
いつもは溜め息をつきつつも流しているのに。
珍しくもやる気になっている主の言葉に、サクラはその翠色の双眸をキラリと光らせた。
「シカマル様、その役目是非私に」
身を乗り出して言うサクラに、シカマルの透明な視線が投げかけられる。
面白そうに、唇の端が吊り上げられた。
細められた瞳が、楽しそうに揺れる。
「いいぜ」
徹底的にやりな。
言外に含まれた言葉に、サクラはにっこりと笑った。
その後の上忍たちの運命は、言うまでもなく。
たっぷりと容赦なくすえられたお灸のおかげで多少は強くなった上忍三人組を見て、火影がそれを他の忍にも起用し。
最強の頭脳派主従が練りだした恐怖のレベルアッププランによって、里の忍の質は格段に良くなったらしい。
シカマル50の萌命題 28:修行
これでシリーズ……考えとこう。
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