07: 想い出



「これは……」

 物置を整理してる途中に出てきたものに、は柔らかく目を細めた。
 美しくカッティングされた、決して溶けない絶対零度の氷の中で、瑞々しく当時の鮮やかさを残す紫御殿。
 聖衣と同じ素材で出来た台座に、小さく繊細な薔薇細工。
 いつの頃からか見なくなったと思ったら、こんな場所にあったのか。
 黄金の細工と氷の上に積もった埃に苦笑を零しながら、はそれをそっと手に取った。




「あれ、それは……?」

 薔薇の花束を抱えたアルバフィカが、棚の上に置かれたものに首を傾げる。
 どこか幼さの残る仕草にクラレットは小さく笑みを零し、彼から薔薇を受け取って花瓶を取りに奥へ行った。
 その笑みの中には、もしかしたらそこに置かれた物のエピソードに対するものもあったかもしれない。温められたポットを手に、椅子を指差しながら、もそっと笑みを浮かべた。

「貰い物だ」
「貰い物?」
「誕生日プレゼント」
「え……?」

 これは本気でわかっていないらしい。
 いや、本当に小さな頃の事だから、忘れているといった方が正しいか。
 戸惑いと嫉妬がない交ぜになった微妙な表情に、は喉の奥で笑う。カップに美しい飴色をした紅茶を注ぐポットが、ゆらゆらと揺れた。



 眉間に皺を寄せ、アルバフィカはポットを置いたの手を取る。
 はそれをするりとかわし、中央に茶菓子を置いた。ちなみに、これはクラレットの手製である。
 その間にもは至極楽しそうに笑みを零し、いつに無くご機嫌な様子だ。
 彼女にこんな顔をさせるそれを、いったい誰からのものだとアルバフィカは拗ねながら睨みつけた。
 そんな彼の様子に、はたまらず笑い声を上げる。

「お前、本当に覚えてないのか?」
「え?」
「それ、お前が私の五つの誕生日にくれたやつなんだけど」

 小首をかしげて目を見開くアルバフィカの顔を覗き込む。
 しばらく呆然とした顔での言葉を租借していたアルバフィカは、その意味を理解すると、白皙の肌を耳まで真っ赤に染めてテーブルに突っ伏した。
 恥ずかしい。まさか、嫉妬した相手が過去の己だったなんて。
 今にも煙を上げそうなアルバフィカの様子に、は極上の笑みを浮かべながら、彼の肩から滑り落ちた浅葱色の髪を指に絡め、そっと口付けた。