04: だれもいない街
任務は殲滅だった。
女神と世界に害を齎す神を祭り、その神を降臨させようとしている者たちの。
しかしどんな神でも、それを信仰している者達にとっては自分達の救いであり、神がどんなものかを知らずに信仰しているものも、当然いた。
その中には何の力も持たない女や小さな子供すらいて……。
「胸糞悪い……」
後味が悪い、の方が正確か。
ヘッドパーツと仮面を外し髪をかきあげて、赤黒く染まり死体に埋め尽くされた大地を見回す。
つい数刻前まで活気付いていた街は、いまや無人の廃墟へと変わり果てていた。
手甲についた返り血を払い落とし、ぼろぼろになり所々赤くなっているマントを取り外して頬にとんだ血を拭う。
既に乾き始めていたのか、凝固した赤いカスがぽろぽろと剥がれ落ちた。
「……」
背後から聞こえた自分以外の声に、無事だったかと口元に笑みを浮かべて振り返る。が、すぐにそれはへの字に変えられた。
魚座の聖衣に包まれた身体には、返り血ぐらいしかついていないその姿。けれど、剥き出しの頬には一筋の傷がつき、血が流れ出ていた。
視線を落とし憂いを滲ませたアルバフィカは傍目で見ていてとても美しいが、暗く沈んだ瞳にその悲しみがより深く伝わる。
「フィー、その傷は」
「うん……ごめん、油断した」
泣きたいくせに笑おうとして、失敗したと言うような顔だ。
人一倍優しい少年に、この任務は少々酷だったかと思わざるを得ない。
だからこそ、教皇も黄金一人いれば事足りる任務に、わざわざを同行させたのだろうが。
小さく息を吐いて、はアルバフィカの頬の血を拭い、ヒーリングを施す。
頬に当てられた手に生きた人のぬくもりを感じて、アルバフィカはそれに己の手を重ね瞑目した。
「は……」
「うん?」
「は、死なないだろう?」
彼らのように、温かな赤で大地を染め上げ、その身体から熱をなくし、物言わぬ骸などになりはしないか。
彼の不安が透けて見えた。
それを肯定すればひと時の安堵を与える事は出来るのだろうが。
「死ぬだろうよ」
「……っ!」
「いつかはな。けど、今じゃない」
「……意地が悪い」
拗ねた顔をするアルバフィカに、はふんっと笑って、傷が在った場所に唇を寄せた。
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多分10〜15歳の間くらい。
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