03: 痛み



「痛い……」

 クッションを抱き込み、ラグの上に丸まって、は愚痴を零した。
 傍で控えているクラレットはこればかりは仕方がないと苦笑を浮かべ、師と兄弟弟子二人はおろおろするしかない。
 落ち着かない気配を漂わせている三人に、はその原因が自分にある事を知りながらも、ただイライラしていた。
 普段は苦笑を浮かべつつも受け入れている現状でも、身の内からじくじくとした痛みを感じている今は鬱陶しいだけである。
 為す術も無くを心配している三人をギロリと睨みつけ、は手負いの獣の如く低く唸った。

「出てけ」

 鬱陶しい。
 おどろおどろしい小宇宙を向けて威嚇するに、ぴきりと音を立てて固まる男性陣。
 はそのままクッションに顔を埋めて不貞寝を決め込む。
 沈黙の中、人馬宮の外で小鳥の鳴く声だけが自由に飛び交っていた。

「……今日のところはお引き取りください」

 申し訳無さそうに退室を促すクラレットに、男達は力なく頷いた。





「デス〜、が、が〜……!」

 出てけって、鬱陶しいって……!
 マジ泣きして縋ってくる恋人の背を叩いて宥めつつ、視線だけで唯一平然として見えるフーガに説明を求める。ちなみに、アルバフィカはアフロディーテほど取り乱していないまでも、今にも零れ落ちそうなほど瞳が潤んでいた。

「あー……女性特有の痛みで機嫌が最悪らしくて」
「八つ当たりされた挙句に追い出された、と」
「うわ〜〜〜んっ!」

 抽象的な説明でもぴんと来たデスマスクは、納得顔で頷く。
 大きな花浅葱の瞳を潤ませて見上げてくるアルバフィカに、巨蟹宮の主は深緋の瞳をついと細め、その柔らかな髪をくしゃりと撫でた。

「別に嫌われたわけじゃねーんだから、そんな顔すんな」
「本当ですか……?」
「ああ。明後日あたりにはお姫様の機嫌も元に戻ってるだろうよ」
「……うん」

 すんと鼻を鳴らす少年を微笑ましげに見守って、デスマスクはやれやれと肩をすくめるのだった。


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 やっていいのかちょっと迷った女の子の日ネタ。
 主人公はかなり重いみたいですね。始まってから三日くらいは毎日痛みにイライラして周囲に八つ当たりしながら過ごします。迷惑な事に。
 その日に任務を入れようものならきっと悪夢が見られます。(命令した方も標的も。ついでに周囲の人も巻き込まれ?)