02: あてにならない



 黄金聖闘士の子供には手を出すべからず。
 それはほぼ暗黙の了解と言っても良い。
 けれど、その容姿の麗しさに、虫が花に惹かれるようにふらふらと近づいてくる馬鹿もいるわけで。

「あてになんねー掟だな」

 手っ取り早く気絶させた男を見下ろし、は小さく息を吐いた。
 足元で白目をむいている男は、つい先程までアルバフィカの事を欲望塗れの薄汚い目で見ていた下衆である。
 いくら女っ気がなく、同性同士の恋愛が普通にまかり通っているとはいっても、その視線であの愛らしくも美しい子供を見るなど以ての外だ。
 ビジュアル的に許せたものではないし、何よりあの子はまだ二桁に達していない幼い子供。
 美しいもの、可愛いものを心底愛するは、しばらくの間は自分が守らなくてはと妙な使命感を抱いていた。

「さて、どうするか」

 私闘はご法度なために顔を見られないよう背後から襲い掛かり、相手は深く昏倒している。
 統計上、あと2、3時間は目覚めないだろう事はわかっているので、はどうやってアルバフィカへのセクハラ未遂に対する報復を果たしてやろうかとゆっくり考える事が出来た。
 ちなみに、場所も絶対といっても良いほど人が来ないところだ、ここは。

「去勢でもしちまえばいいんだろうが、それは私が見たくねえし……片足の腱でも切らせてもらうか」

 そうしたら雑兵も続けらんねーだろうから、アルバフィカに会う事もなくなるだろう。
 それがいい、そうしよう。んでもってその後は放置決定。
 はにっこりと笑みを浮かべて、おどろおどろしい小宇宙をこめた手刀を振り上げた。



「ねぇ、知ってる? この前聖域の北西の端の方で雑兵が襲われたんだって。背後から一発で昏倒させられて、右足の腱が切られたって」
「ああ、何か言ってたな。それで?」
「それでその人歩けなくなったから雑兵やめる事になったんだけど、僕ちょっとほっとしちゃった。あの人なんか目が怖いんだもん」

 そらーもう欲望でぎらついた目で見てたからな、お前の事。
 口には出さずに心の中だけでそう零し、人の不幸で喜んでると落ち込むアルバフィカに、件の犯人は柔らかな笑みを浮かべて浅葱色の髪をすいたのだった。




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 教皇や師匠とかは彼女のやっていることを知りつつも黙っていると思われ。