01: 柔らかい拒絶
時折、が全く知らない別の人に見える。
それは仮面をつけていても時々わかるほどのもので、そんな時アルバフィカの心は凍りつくような冷たさを覚えた。
仮面を外すと、それは余計に顕著だ。
ほとんど毎日のように一緒にいて、共に修行をし、もう一人の友人である双子座と談笑し。
そんな風に過ごしていても、時折、本当に時折、ふっと遠いところを見やり、硬質に煌く紫紺の目を細め僅かに揺らす。
揺らぐ、と言う単語とはとんと縁の無さそうな彼女が、切なそうに、どうしようもない虚無を抱えているように。
「……?」
仮面を取り、木陰に寝そべって透き通った空の青を見つめる少女の顔を覗き込む。
ほんの僅かに空気を換えた事を敏感に感じ取った少年は、案の定彼には知り得ぬ場所を臨む少女に少しばかり苛立ちを覚えた。
どこを見ているのだろう。
自分達はここにいるのに。
こんなにも、彼女を想っているというのに。
何故、そんなにも遠い所を見ているの。
まるで母親の関心をかいたい子供のような独占欲だと、その気持ちを向けられている少女はひっそりと想う。
は時折己が遠い過去に思いを馳せている事を、アルバフィカが嫌がっていると知っていた。
知ってはいたが、仕方が無い。
いつもは忘れていると言うのに、ふとした瞬間に思い出し心が彼らに沿うのだから。
それは亡くなった人への懐古に少しばかり似ていた。
実際の所死んだのは自身だというのにおかしなものだが、この世界のどこを探しても存在し得ないという事は同じである。
心のうちにしか、存在し得ないという事は同じである。
ああ、懐かしい人たち。私は今ここで生きている。
瞬いたまぶたの裏に浮かぶ面影に、語りかける。
それすらも気に入らないアルバフィカはの頬に触れ、髪に触れた。
無言で何を考えているのかと問いただす、必死な花浅葱の瞳に、は柔和にも酷薄にも見える笑みを浮かべて、無言で少年の頭を抱え込んだ。
の胸に伏せながら、アルバフィカはまた誤魔化されたと脹れる。
それでも大好きで大事で仕方の無い彼女がこうして手を伸ばしてくれるから。
しっかりと、少年の存在を抱きしめてくれるから。
アルバフィカは目を閉じて不満と疑問を飲み込む。
そうして少女の心臓の音を聞きながら、少しばかり早いシエスタへと身を任せた。
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