教皇猊下の華麗なる野望〜次期教皇育成計画その参〜
今日も今日とて以下略。
あの時以来(その弐)、書類の分類はの仕事になった。手の空いた神官も手伝ってくれて入るが、スピードはの方が断然早い。
教皇の仕事の能率はそれなりに上がり、のイライラも少しは解消した。
したのだが……。
「おお、人馬宮様。相も変わらず神の子もかくやと言わんばかりでございますな」
出た。
仮面で見えないのをいいことに、裏がありますと言わんばかりの貼り付けた笑みを浮かべる神官に対し、思い切り渋い顔をする。
公衆の面前で赤っ恥をかいて以来、この神官は何かとを褒め称えてくる。その中で最も多い単語が「神の子」やら「神のような才気」とかだ。
必ず神という言葉がついてくるのは何故だろうか。
仕事があるはずなのにやたらと構ってくる男に対応する事もなく、思考を明後日の方向へと飛ばす。
普通の子供ならば褒められればいい気分になって、自分にとって都合のいい人間に懐くのかもしれないが、にはただのおべっかでしかない。いい加減ウザかった。
――これはそろそろ本格的に動くべきか……。
ここ数日、はこの神官の情報を得るのに奔走していた。人間関係から経済状況、裏で何をしているのかも含めて。
パソコン等の情報機器が無く、情報を得るためには人の口を使うしかないため、あと何日かかかると思っていたのだが、皆幼児が相手では何も判らないと思い、それはもう面白いくらい口が羽よりも軽くなっていた。
故に予想以上に早く必要な情報を得られたのだ。
神官の今の地位はほとんどが金で買ったようなもので、仕事は出来るものの政務能力は人並み以下。
その癖、人を出し抜いたりする事ばっかり得意で、真に心から神に仕えるために神職についた善良な人々を何人踏み台にしてきた事やら。
おまけにもう一つ。何とこの神官、聖域に寄付された金を横領して私服を肥やし、いくつかの別宅に愛人を囲っているとか何とか。
能力的に見ても、現状を見ても、この神官が聖域にいる必要など全く無い。むしろ汚職にまみれた寄生虫、百害あって一利もない害虫である。
何よりウザい。
がこうして動いている事に唯一気付いている教皇は何も言わないし――むしろ推奨している雰囲気すらある――これは何をしても構わないと、都合のいいように解釈させてもらう事にした。
丁度いい書類も手元にあることだし。ニヤリと笑みを浮かべる。
まだの近くに立って雑音を発している神官を鮮やかに無視し、教皇の膝の上に乗った。意識の端にも引っかからないようなその態度に、神官はひくりと顔を引きつらせたが気にしない。
「きょうこう、これ」
ぴらりと一枚の紙を見せる。
アラビア数字が数多く並んだそれは聖域の財政に関わるもので、かの神官がいつも教皇の手に渡る前に改ざんしている書類の正式なものだ。
最初のものは間に合わなかったが、二つ目のもの以降はこっそりきっちり確保しておいたのだ。つじつま合わせの報告書を。
書類にサインする手を止めて、将来超有望株な幼女の差し出す書類に目を通す。
それは紛れも無い横領の証の一部で、ここ数年教皇がずっと探していた代物だった。
一瞬ぎょっと目を見張り、あっさりとそれを押さえてしまったの頭をわしわしと撫でる。
本当にこの幼女は、毎度毎度いい方向に教皇の期待を裏切ってくれる。
「、他には?」
年甲斐も無く胸を躍らせる教皇に、はやけに明るい声で告げた。
「いもづるしきー!」
二人の仮面の下は実にイイ笑顔だ。
ちなみに声のボリュームはとても小さく、に思いっきり無視された神官は二人の間に割って入る事もできず、すごすごと己の仕事に戻っていった。
彼はこの先――主にの手によって――かなりの災難に襲われるのだが、幸いこのときはまだ何も知らないでいた。
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