教皇猊下の華麗なる野望〜次期教皇育成計画その弐〜
「では行くぞ」
「はぁい」
今日も今日とて師の留守中に目当ての弟子を掻っ攫い、教皇猊下は執務室へと向かう。
最近何だか忙しくなった事に首を傾げてはいるものの、周囲に硬く口止めしているため、奇跡的に親バカ師匠アフロディーテにはばれていない。
も抵抗する無意味さに脱力し、おとなしく小脇に抱えられ運搬されている。
いつものように膝の上に乗せられ、神官たちも教皇の奇行――本人に自覚は無い――に慣れたのか、に視線が集中する事も無くなった中、教皇は机上に山と積まれた書類に手をつけた。
その中身は何度見ても任務の報告書やら聖闘士の派遣要請やら、聖域内外からの訴えやら、大小様々な内容が入り乱れていた。正直教皇が見る必要がないのでは、というようなものもあるような気がする。
聖域の内政はどうなっているのだろうかと、は眉間に皺を寄せる。これでは仕事がやり辛いに違いない。
何日経っても改善されないそれについイラッとしたは、教皇の膝の上から飛び降り、空いている椅子をPKで飛ばして猛然と種類分けを始めた。
周囲から止める声が上がったが無視する。悪戯しているわけではないのだから、こういう配慮の足りない奴らの声を聞く必要は感じなかった。
が。
「何をなさいますか、人馬宮様! 大事な書類に悪戯されるなど……いつもは大人しいというのに、今日はどうされたというのか」
そこには、やはり小さな子供という嘲りが含まれていた。
何だと、この雨の日の某大佐が。(無能と言いたいらしい)
青筋を立てながら、抱え上げる神官の腕から逃げ出し、分けた書類だけを持って教皇の膝の上に避難した。いくら高位の神官といえど、地位にしがみつく俗物が教皇に向かって説教など出来まい。
もちろん、書類は教皇へと押し付けた。
のその行動をただじっと見ていた教皇は、何か言いたそうな顔をして正面に突っ立って神官を気持ちよく無視し、に押し付けられたいくつかの書類を見た。
どれも綺麗に種類別に分けられており、重要度の高いものから順に並べられている。
こんな事までわかるのか、と教皇は目を見張る。まずは雰囲気に慣れさせるために事あるごとに連れてきていたのだが、思わぬ収穫だ。
やはり自分の目に狂いはなかった、と内心ほくほくしながら目の前の神官にその書類を渡す。
「見よ。これが悪戯に見えるか」
「……! こ、これは」
「お前の早とちりのようだな。見事に分類されておる。悪戯ではなくお前達の手が回らなかった所を手伝ってくれたのだ。頭のいい子だな、は」
頭を撫でる教皇にされるがままになりつつ、は仮面の奥ではんっと神官を鼻で笑った。
神官はというと、多くの視線が集まる中晒された失態に、羞恥で顔を赤くする。
それがへの逆恨みに変わり、次いで明らかに「利用してやろう」という色に変わって、即座に何事もなかったかのように貼り付けたような笑みに戻った。
巧妙に周囲から見えないような角度ではあったが、下から見上げているには丸見えで。
普通の三歳児ならば気づかないような変化でも、中身は成人プラス現在の年齢な外見幼女はしっかりと一部始終をその目で見、心の中でけっとばかりに吐き捨てた。
執務室にはなんだか権謀術数が見え隠れしており、自然とそれが身につき始めているは、ここのところのストレス発散の為にも返り討ちにしてやると仮面の中で決意の笑みを浮かべていた。
それはそれは清々しくも黒さがにじみ出る笑みだったのだが、幸いにも牡羊座特製の仮面に遮断され、誰の目にも留まる事はなかった。
この決意が更に教皇を喜ばすはめになるのだが、このときのはまだ知る由も無い。
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