私に薔薇を君には愛を



「チョコレート……」
「しかもブランド物ばっかり……」

 リビングのソファーの前においてあるローテーブルの上に山と積まれたチョコレートを前に、アルバフィカとフーガは呆然と呟いた。
 一人掛けのソファーに高々と足を組んで、手元にあるカードを読んでいたがふと顔を上げ、口元に笑みを浮かべる。

「おかえり、二人とも。アホ面晒してねーでさっさと座るか、部屋で着替えるかしたらどうだ?」
「ああ……」
「うん……」

 顎でさされるままに腰を下ろして、自分達の荷物を足元に置く。
 各自三個以上ある大きな紙袋の中にあるものに目を留めて、はくいっと片眉を上げた。
 唇が面白そうに歪む。

「お前らも人のこと言えねーじゃねえか」
「う……」
「あはは、まーねー。持てる男は辛いねー」

 アルバフィカは気まずそうに口ごもり、フーガはにっこりと笑みを浮かべる。
 どう言い訳したものかとぐるぐるしているアルバフィカを視界の端で捕らえながら、は「これでしばらくはチョコレート三昧だな」と呟いた。



 世の中はバレンタイン一色。
 男も女も皆が一様にそわそわしだす時期である。もっとも、女性が男性にチョコレートを贈って告白を、というのは日本だけの行事だが。
 特に思春期の少年少女が集まる学校はその傾向が顕著で、フーガとアルバフィカの通う普通の共学校では様々な思念が飛び交っていた。
 素手で岩を砕いたりPKが使えたりはするものの、覚ではないため他人の思考を読む事は出来ないが、何だか色々とキャッチしてしまっていた所為で当日を迎えるまでの数週間疲れきって帰ることが続いていたので、今日と言う日が無事に終われて二人はとても嬉しかった。
 既に思春期を前世(しかも聖戦前)で過ごし、中身は既に四十路近いために、級友たちのテンションについていけず、今日は別の疲れを覚えはしたが。
 アメリカかギリシャにいればよかったと、今日ほど日本で学生生活を営んでいた事を悔いたことはない。
 というかそもそも何で大学を出ているのに、今更高校に行かねばならないのだろうか。
 今更か……とフーガはため息を吐く。即決だったのだから。ほとほと自分達はには弱い。
 まぁ、つまりはそういう事である。

「お、ゴディバ。レオニダスもあるな。アルバフィカの方は高級チョコが多いか。フーガの方は手作りと市販? やっぱ雰囲気の差か」

 二人が止めないのを良いことにがっさごっそと紙袋をあさっていたが、予想通りと満足そうな息を吐く。
 間近で聞こえる恋人の声にやっとこっちに戻ってきたアルバフィカは、僅かに顔を引きつらせて喜々としてメッセージカードを開いている少女へと視線を向けた。
 相変わらずの温度差だ、とフーガは苦笑を禁じ得ない。

、その……私は……」
「んー? お、これ本命っぽい」
「えぇっ!? そういうのは全部断ったはずなのに……」
「あー、黙って置いていく子もいたからな……」
「相変わらず人を寄せ付けないのか。まぁ、しょうがねーな」

 毒性はなくても、もう癖になってるから。
 告白めいたことが書かれた紙をぺりぺりと引き裂きながら、は頷く。
 結構分厚いカードなのだが、元聖闘士の指先にかかればあっという間にばらばらだ。
 あまり表面に出さなくてもそれなりに嫉妬はしているらしい、とフーガは柔らかな笑みを浮かべる。もっとも、最たる当事者であるアルバフィカは気付いていないが。

「あ、これ手作り……血の臭い……うっわ、本当にこんなことする奴いるんだな」
「え、あ、本当だ……何で血なんか」
「呪いだろ。自分の髪やら血やらいれる……血は臭いでわかるけど、髪はな……」
「手作りは全部廃棄しろ」
「「了解」」

 怖くて食べれたものではない。
 三人して、手作りのものを仕分けるためにチョコレートの山に向かい合う。
 しかしながら、そこでふとした疑問がわきあがり、はたと手を止めて自分達と同じようにチョコレートの山をあさっている少女を見た。

「なぁ、
「何故がもらってるんだ?」
「女子高だから」

 取り付く島もない簡潔な答えである。
 それでもわからない、という顔をする二人に、はふっと男前な笑みを浮かべ、先程まで読んでいたメッセージカードや手紙類をフーガに投げてよこした。
 受け取ったフーガは、そこに書かれた、何と言うか百合の香りの漂う文面に、「ああなるほどらしい」と納得するしかなく、生温い笑みを浮かべる。
 横からそれを覗き込もうとしていたアルバフィカは反対側にぐいっと引き寄せられた。目の前には満面の笑みを浮かべたのアップ。
 思わず固まってしまったアルバフィカには喜々としてのたまう。

「お前は後で私に赤い薔薇」
「……"From Your Valentine"のカードもつけるよ」
「そりゃ楽しみだ」

 頬を染め微笑む美少年を愛でる、誰よりも漢前な美少女。
 眼福と思いながらも、彼女がチョコを大量に受け取った背景が嫌と言うほどに解ってしまい、女子高に入れたのは間違いだったかとフーガは頭を抱えた。



どっとはらい

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 バレンタイン話。
 チョコレートを出したかったので時代は現代日本。しかも記憶持ちで転生済みみたいです、この人たち。
 最初は普通にアルバフィカにチョコレートを渡す予定だったのに、いつの間にかアルバフィカが花を上げる事に……あれ?
 そもそも、この主人公でバレンタインなんていうイベントをしようと思ったことが間違いだったような気がします。

 この設定ではさんは女子高(お嬢様が通う由緒正しい私立校)で、アルバフィカとフーガは普通に共学に通ってます。(こっちも私立) で、女の子にもってもて。きっと颯爽と廊下を歩くたびに乙女の桃色の吐息が漂うのです。お姉様〜とか呼ばれてます、きっと。絶対。
 本人はアルバフィカたちと共学に通う気満々でしたが、悪い虫がついたらどうしようと言う懸念の元、満場一致で女子高に押し込まれました。
 お嬢様方にもてまくっているのは、その腹いせに意識して王子様(騎士?)を演じているからです。常々ごつい男よりも柔らかくて愛らしい女の子の方が好きだと思っていて、心底楽しんでいるので性質悪いです。
 アルバフィカの方は、実はあの中に男からのものも混じってたりして。フーガの方は全て女の子から。
 廃棄された手作りチョコの中にはまともな物もあるはずですが、気持ちの悪い呪いのとばっちりを食っています。かわいそうだと思いますが、主人公たちは自分達以外の気持ちを汲み取りすぎても疲れるので、全く気にしていません。まったくもって自己中な連中です。
 でも一つそんなのがあったら、怖くて他のも食べられませんよねー。

 ホワイトデーには、書けたらもう少しまともな物を書きたいと思います。
 これからも我がサイトをよろしくお願いします。


秋月しじま


-------------------------------------以下は切り取ってください。

 この話は二月一杯までフリーにします。
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 一発書きの拙い物ですが、受け取っていただければ幸いです。
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 自分が書いたと主張するような方はいないとは思いますが、念のため。
 それでは、失礼します。