存在確認
年が明けた。
は一人、スターヒルまで上ってじっと地平線の彼方を見据える。
生まれ変わって何度目かの新年だ。
だからといって、年の変わり目に感慨が沸くような人間ではないのだが、二十年に渡って染み付いた習慣は抜けない。
今まではこれといって行動を起こしはしなかったが、今年はふと思い立って、教皇以外には立ち入りが許されない場所へと足を運んでみた。
とはいっても、次期教皇として暗黙の了解が成り立っているために、見つかったとしても叱られる事は無いのだが。
空気は肌をさすほど冷たく、頬をかすめる風は強い。
濡羽色の髪を風に遊ばせ、朝靄がかかりだんだんと色を変える景色を、紫紺の瞳で眺めていた。
「」
「……フィー」
顔に張り付く髪を押さえ振り向くと、浅葱色の髪を同じようになびかせた少年が立っていた。
声をかけられるまで気付かなかった自分に、それほどぼんやりしていたのかと苦笑する。
「ここは教皇以外立ち入り禁止だぞ」
「も入っているでしょう」
「私は一応次期教皇らしいし?」
「そういえばそうだっけ」
ことりと小首を傾げるアルバフィカに、言葉にすると怒られるので心の中だけで可愛いともらす。
は小さく笑って、顔を正面に戻した。
「何してたの?」
「太陽をまってた」
「太陽……?」
なぜかわからない。
そんな顔をして、アルバフィカは少女の隣に並ぶ。
それでも、人や物を問わず美しいものを好む少女が、この夜明けを見るために、わざわざ寒いのを我慢してこの場所に来た事だけはわかった。
だんだんと上ってくる太陽に照らされて空が青く、大地が白く照らされて、闇の中で眠らせていた姿を現す。
確かに、その様は美しかった。
「寒いの苦手なのに」
「苦手だけどな……」
「だけど?」
「……いや、何となくだ」
初日の出を見に来た、と言っても、彼にはわからないだろう。
日本でも、今この時代には初日の出を見ると言う習慣は無かったはずだ。
こういう時、自分の異質さが浮き彫りになる。
「」
「うん」
「手が冷たいね」
「そうか」
「そう」
ぎゅっと小さな手を繋ぎあって、は自分がここにいることを確かめた。
ちょっとした豆知識(?)
日の出を見に行くと言う行事は、本居宣長が伊勢で見た日の出が美しいと紹介した事から、広まったそうです。
それから、新年に日の出を見る、ということに変わったとか。
ちなみに調べてみてわかったことですが、本居宣長は主人公と同じ1730年に生まれています。
驚きの事実です。
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