不必要な懺悔



 悩ましげにひそめられた柳眉、震える長いまつげが落す影。
 肩口から零れ落ちる青い髪と薄い唇からもれたため息が、なんとも言えぬ色気をかもし出す。
 そんな彼を真正面から観察していたは、ついた頬杖に頬を埋めて、うっとりと笑みを浮かべた。
 やはり美人は憂い顔が最も美しい。
 ひとしきりその美を堪能した後、やっとは口を開いた。

「それで、あんたは何を言いたいの?」
「あなたの、弟子を……」
「あの子を?」
「死なせてしまいました。私の罪に、巻き込んで……」
「何だ、そんな事」

 何だ、そんな事。
 事も無げにそう言い放ったに、サガは俯いていた顔をついと上げる。
 何を言っているのか分からないと顔にでかでかと書く青年に、は優しげに見える笑みを浮かべた。

「それはあの子が選んだ道よ。ほかならぬあの子があの子自身の意思で、あんたについていくと決めた。生も死も共にすると決めた。それはあの子だけの神聖な誓い。誰にも犯すことの出来ない意思。神ですらね。あんたには負い目があるんでしょう。でも、それは私に謝る事じゃない」
「しかし……」
「しかしもかかしもないわ。……ああ、あんた私に許されたくないんでしょ」

 ふと思い至った考えを口に出してみれば、目の前の美丈夫ははっと息を呑み目を見張った。
 どうやら核心を突いたらしい。

「あんたが殺した射手座はあんたを許した。あんたが巻き込んで死なせたというあの子達もあんたを許した。殺された教皇も殺されかけた女神も、あんたを責めようとはせず、逆に許した。あんたは自分を許せず今も自分を責め続けているのに……。どうして皆は諸悪の根源たる自分を責めないのだろう。そう思ってんでしょ?」
「……はい」
「なら私も許したげる」
様!」

 悲痛な声を上げるサガに、は笑みを消し、目を細めた。

「真面目だねぇ。あんたは真面目すぎ。そんでもって自分に厳しすぎ。そんなだから精神分裂なんて起こすのよ。もっと楽に生きればいいのに……ま、それができれば苦労はしないわね」

 あの子達を見習いなさいな。
 
「だから周りはあんたを許す。あんたが自分を苛めすぎるから」
「私は……」
「今答えを出す必要は無いわ。悩めばいいでしょう、好きなだけね」

 養い子と同じ青い髪をぐしゃぐしゃとかき混ぜた。


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どうやらカノンの養い親になっているようです。